ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
おおよそこの状況に似つかわしくない、余裕に満ちた声がした。
ぴた、と彼の手が止まる。小春ともども、下を見やった。
「俺も混ぜてよ」
長身の男子高校生────至が、微笑を湛えながらこちらを見上げているのが、街灯の光で分かる。
「何だよ、お前……」
「んー? 魔術師だよ」
「なに……」
「君だって威勢のいい奴と戦った方が楽しいでしょ? 俺が相手になるから降りてきてよ」
彼はすっかり至のペースに飲まれていた。
小春と至を見比べてから、思い出したように虚勢を張る。
「はは、確かに。仕掛けたからには逃げんなよ」
「ご心配なくー。一瞬で済ませてあげる」
地上へ着地した彼は瞬足で至に詰めた。
至は逃げも隠れもせず、その場から動かない。
小春は不安を覚える。あれではもう、勝負ありだ。
彼の手が至の身体を貫いて終わり────。
「はい、俺の勝ち」
予想と裏腹に、倒れたのは詰めた彼の方だった。
「な、にを……」
ただ、至の指先が額に触れただけだ。それなのに、何故か身体から力が抜ける。
猛烈に眠い。耐え難い睡魔に抗えず、ふっと目を閉じた。
至は眠りに落ちた男子高校生を冷ややかに一瞥し、それから小春を見上げる。
「ねぇ、君。ちょっと目閉じてて」
小春は何も考えられず、ただ言われた通りにした。
ガン! と、鉄のようなものに硬い何かがぶつかる音がしたかと思うと、ぐちゃ、と潰れるような音が続いた。
びくりと肩を揺らした小春は、全身が粟立つのを自覚する。
彼が何をしたのか、はっきりと分かったわけではなかった。
それでも、いい予感はしない。残酷な想像が容易に出来てしまう。
「はい、おしまい。降りてきていいよ。汚い血が広がってるから足元に気を付けて」
小春は至を凝視する。信用していいのだろうか。
そんな小春の心情を悟った至は、安心させるように柔らかい微笑みを向ける。
「大丈夫だよ、俺は君を傷つけない」
どのみち、その言葉を信じる他に選択肢はないように思えた。
例えばこのまま飛んで逃げ去ることは可能だが、それではまたしても魔術師と遭遇したとき、同じことが繰り返される気がした。
そのとき、今と同じように助けてくれる人が現れるとは限らない。
ならば、今助けてくれた彼のことを信じてみたい。
いずれにしても一人では右も左も分からない。
小春は彼の言葉通り、ふわりと地面に着地した。
「……っ」
青白い街灯に照らされ、血の海がてらてらと不気味に光っている。
先ほどの彼は見るも無惨な姿で息絶えていた。
ブランコを囲む柵に打ち付けられた頭部は、原型も留めないほど潰れていた。
思わず顔を引きつらせながら背ける。
「場所変えよっか。歩きながら話そう」
少し間を空けて道を歩き、小春を振り返った。
「君の名前は?」
「……分かりません」
至の微笑が初めて途切れた。きょとんと不思議そうな顔で首を傾げる。
「分かんない、って?」
「覚えてなくて……、何も」