ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
「あ、起きた?」
至が声を掛けると、小春ははっとしたように身を起こした。
「よかった……」
日菜は安堵の息をついた。彼女は授業が終わってすぐに飛んできた。
至も小春が回復したことにほっとしつつ言う。
「この子は三葉日菜ちゃん。回復魔法の魔術師。君の怪我を治してくれたんだよ」
そう紹介され、日菜は小春にぺこりと会釈した。
「もー、小春ちゃんさぁ、強がっちゃ駄目じゃん。大丈夫じゃないときは、ちゃんと“大丈夫じゃない”って言わなきゃ」
冗談めかして笑いかけたが、小春は心底困惑したように至と日菜を見比べていた。
「あの、あなたは……?」
不安気な面持ちで至を見上げる。
彼は思わず苦笑した。
「やだな、昨日のこと覚えてないの?」
「え、と……。わ、私はいったい?」
昨日のことどころか、自分のことも彼らのことも、何故ここにいるのかも忘れ去っていた。
至は困ったように頭を搔く。
「んー……参ったな。眠るたびにリセットされちゃうのかな?」
元来そういう体質なのか、あるいは、魔法ガチャの代償か。
前者だとすると、あまりにも対策が取られていない。
昨晩見たメッセージを思い返す。
小春の周囲の人物とのやり取りからも、そういった記憶障害に関する内容は見当たらなかった。
代償の可能性が高いと見ていいだろうか。
至は改めて、小春や自身、ゲームに関して丁寧に説明した。
────そんなことを、毎日繰り返した。
もともと、至にはここまで肩入れするつもりはなかった。
原動力は好奇心だけでもない。
淡白な中にも何処かお人好しな部分があり、日々小春を見ているうちに“もう関係ないんでさよなら”と切り捨てることも出来なくなってしまったのだ。
放っておけば、また襲撃に遭い、わけも分からないうちに殺されるだろう。
小春を案じた日菜も、二人と協力関係を結ぶことにした。
ただし、至はあくまでニュートラルな立場だ、と主張した。
「これまでもそうして来た。俺は気まぐれだから、誰の味方するかは気分次第だよ」
至の瞳に興がるような色が広がる。
強いて言えば、自身の抱く興味の味方だ。
「それって、ニュートラルって言うんですか……。気分屋っていうか、利己的っていうか、日和見っていうか」
呆れたように言った日菜に、至は笑う。
「まー、しばらくは君たちの味方でいるよ。色々と心配だからね。……これは片足突っ込んだ俺の負けだ」
翌日も小春への説明から幕を開けた。
彼女に断り、再びスマホを借りる。メッセージアプリの中身を見せて貰った。
【無事なのか?】
【どこ行ったんだよ】
【祈祷師と会ったのか?】
相変わらず蓮からは小春を案じるようなメッセージがいくつも届いていた。
「祈祷師……」
至は呟く。
何者なのだろう。誰かの異名だろうか。
蓮は一貫して祈祷師を警戒するような文言を並べていた。
敵にあたる何者かであることは間違いない。
この「蓮」という人物に会えば何か分かるだろうか。
それでなくとも彼は小春をよく知る人物だ────記憶がないとはいえ、小春も自分のもとにいるより、蓮と一緒にいる方がいいかもしれない。
(……捜そうか、蓮くんとやらを)
小春の制服は名花高校のものだが、蓮という人物も同じなのだろうか。
至は悩むように顎に手を当てた。
小春は蓮を覚えていない。こちらが一方的に蓮を見つけても気付けない。
小春を名花高校へ連れて行けば話は早いだろうか。
蓮も恐らく、いや絶対に小春を捜しているはずだ。
彼が学校へ来ていることを願って行ってみようか。
(俺みたいにサボってる可能性は大いにあるけど)
もう、正直授業どころじゃない。
最初の方こそ、魔術師であることを悟られないために“普段通り”を心掛けたものだが、今やその頭数も随分と減った。
今さらバレたところで知れている。
その点、ずっと通い続けている日菜の根性には感心してしまうが。
至はそんなことを考えながら、光学迷彩で姿を隠した小春とともに名花高校へ向かうこととした。