ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 特に蓮にとって、小春は大切な存在であるはずだ。

 メッセージからしても間違いない。

 そんな小春が失踪したのだ。彼は気が気でないだろう。学校に来ている可能性は低い。

 それでも、小春や蓮について何らかの情報は得られるはずだと踏んでいた。



 放課後の時間帯、生徒で賑わう校門前へ来た至は、適当に一人の男子生徒を捕まえた。

「ねぇ、君。……水無瀬小春って子、知ってる?」

 蓮について尋ねようとしたものの、咄嗟に切り替えた。

 至は蓮の名前しか知らない。

 もしかするとこの中の誰かが、ひょっとすると彼こそが、蓮かもしれないのだ。

 下手に尋ねて警戒心を煽るのは良くない。

 その点、小春のことを尋ねれば、蓮なら確実に反応を示してくれるだろう。

「水無瀬? 一緒のクラスですけど……」

 蓮────と仮定するには鈍いリアクションだった。恐らく彼ではない。

 しかしクラスメートであるとはラッキーな偶然だった。

「水無瀬に会いに来たんすか? でも、今はいないですよ。行方不明なんで」

 そういうことになっているようだ。

 至は目を細める。

「彼女と仲の良かった子とか知らない?」

「え? 結構いるけど、一番は向井かな……」

「向井?」

「はい。向井蓮って奴」

 男子生徒の返答に、至ははっとした。

 彼の方から蓮の名を出してくれたお陰で、自然な流れで色々と聞ける。

「彼は学校来てる?」

「いや、無断欠席が続いてます。向井とは連絡つくんで、ただのサボりですかね」

「ふーん、そっか。彼の居場所は知らない?」

「さぁ……? 家とか?」

「住所は?」

「いや……。ちょ、これ以上は言えないです。すいません」

 男子生徒はそそくさと逃げるように行ってしまった。

(まー、そうだよな。得体の知れない他校生に、友だちの住所バラすわけないか)

 少し焦り過ぎたかもしれない。残念がるように眉を寄せつつ反省した。

 だが、事情は多少掴めた。そして、その気になれば蓮とはいつでも連絡を取れる。

 小春のスマホを借りてコンタクトを取ればいいだけだ。

 しかし、至は意図的にそれを避けていた。

 小春の記憶がない以上、蓮の人物像をはっきりと掴めないからだ。

 彼女を案じてはいるが、実際には彼女に害をなす存在────例えば暴力彼氏とか────である可能性も完全に捨て切れたわけではないのだ。

 ……低いだろうが。

 記憶を失い、何事にも怯えてしまう小春を、無情にも突き出すことは出来ない。

 きっと、それは蓮にとっても酷なはずだ。



「何処かでばったり会えないかなー」

 至は願望を込めつつ投げやりに呟く。

 名花高校から戻る道すがら、奇妙な四人組に遭遇した。

 冬真と律、人質に取られたうらら。そして、最後尾を歩くのは陽斗の遺体だ。

 小春は思わず「ひ……っ」と小さく悲鳴を上げる。

 明らかに彼は生きていない。

 至も同様の感想を抱いたが「しっ」と制した。彼らの方へ歩み寄る。

「……うわ、驚いたな。まさにゾンビ?」
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