ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
それを聞いた小春の血相が変わる。
「助けに行かないと」
「関係ないんだから、危ないことに関わるのはやめときな? 見ず知らずの相手でしょ」
大雅など、何の関わりもない赤の他人だろう。わざわざ危険を冒し、そんな魔術師を助ける義理などない。
しかし、小春は固い決意を宿した眼差しを返す。
「危ないって知りながら放っておくことなんて出来ないよ」
危険だとあらかじめ分かっているのに、素知らぬ顔は出来ない。それほど冷淡にはなれない。
至は息をついた。
彼女は馬鹿正直で正義感が強い。それは何度記憶をリセットしても変わらなかった。
「分かったよ。それなら俺があの怪しい彼を眠らせる。そのために小春ちゃんも力を貸してね?」
そして、その夜────星ヶ丘高校の屋上にて一悶着あり、大雅が追い詰められたところで至たちは姿を現した。危うかった。
「ギリギリ間に合ったみたい」
「良かった……」
声を潜めて囁く。ほっと安堵した。
至は律を目覚めさせると、代わりに冬真を眠らせた。
日中に会ったときの様子から冬真と律の関係を推測していた。
よくある、強者に従う腰巾着、という構図が思い浮かんだ。
律を起こしても、彼が脅威になることはないだろう、と判断したわけだ。
────至と小春は拠点である廃屋へと帰る。
ふわぁ、と再びあくびをした至に目をやった。
「眠気、大丈夫?」
「む……、少し眠いけど今のところは平気。辛くなってきたら一旦起こしに行こうかなー。あ、でも俺あいつにキスするのやだな」
茶化すように言う至に、小春は思わず小さく笑った。
「…………」
至は小春の笑顔に少し安堵した。
明日になったらまたすべてを忘れ、不安に苛まれるとしても。
ほんの一時でも、心安らぐ瞬間が訪れたことは喜ばしい。
翌日、廃屋へ訪問者が現れた。
「誰かおる? ゲームのことで話があんねんけど」
この場所は至と小春、日菜以外は知らないはずだ。
他には誰にも明かしていない。それなのに何故、知っているのだろう。
“話がある”ということは、自分たちのことを分かった上での来訪だ。
ゲームとは言わずもがな、ウィザードゲームを指している。
「……小春ちゃん。隠れてな」
警戒した至は光学迷彩で隠れているよう指示した。彼女が姿を消したのを確認してから扉を開ける。
名花高校の制服を身につけた女子生徒がいた。
「君、だーれ?」
そう尋ねると、女子生徒は切羽詰まったような表情を浮かべる。
「あたし、有栖川美兎。身体の大きさを操れる魔術師な。あんたに助けて欲しくて来たんや」
「助けてって、どうしたの?」
「……これまで、ずっと一人でどうにか生き残ってきた。けど、もう怖くてたまらんの。どうしたらええのか分からへん」
アリスは一度俯く。
至は吟味するように目を細めた。
「そこで、あんたに頼みがある。あたしと手組まへん? 共闘しよう」
懇願する傍ら、アリスは鋭く周囲を観察した。
至側の魔術師が何人いるのか正確には分からないが、少なくとも今この場には彼一人しかいないようだ。
……いや、もう一人いる。
床に影が伸びていた。