ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
小春は勢いよく顔を上げ、思わず瑠奈を見た。動揺で瞳が揺れる。
「あたしとしては“黒”だと思ってるよ。和泉くんの左手を見たときの反応からしてもね」
あのとき、近くに瑠奈もいたのか。小春は驚く。
そういうことか────と、納得した。
魔術師は互いに面識がなく、基本的に見分けられないと蓮は言っていた。
だからこそ、瑠奈はああして罠を張っていたのだ。
瑠奈の言う通り、あの左手の石像を見た蓮の反応は尋常ではなかった。
「蓮くんは怖いんじゃないかな。他の魔術師と戦うのが」
瑠奈はステッキを指先で撫でる。
「急に小春ちゃんのそばから離れなくなったのも、蓮くんがゲームに巻き込まれたからだって考えれば、色々と辻褄が合うし」
くす、と瑠奈は笑った。
「ラッキーだったなぁ、今日は。二人をバラバラに出来た」
サッカー部でトラブルが発生したのは、偶然とはいえ瑠奈にとって幸運だった。
小春は心の底から後悔した。
蓮の言う通り、待っていれば良かった。
瑠奈とともに帰る選択をしなければ良かった。
あれほどに蓮が過保護になっていたのにも、今なら頷ける。
敵が何処にいるのか、誰なのか、本当に予想出来ないのだ。
突然牙を向かれ、次の瞬間には飲み込まれている。
「……ってことだから、小春ちゃん。ちょっとだけ協力してね」
瑠奈はステッキを振った。
小春の両足が膝まで石化され、身動きが取れなくなる。
「……っ」
奇妙な感覚だった。
動かさずとも足が異様に重く冷たいのが分かる。
全身を石化された和泉は、いったいどれほど苦しんだだろう。
「大丈夫! 小春ちゃんのことは殺さないよ。だって、魔術師じゃないから。殺したらあたしが損するもん」
友だちだったはずの瑠奈でさえ、敵として目の前にいた。
誰一人信用出来ないのだ。小春の目に涙が滲んだ。
恐怖よりも強い悲しみと怒りを覚えた。
こんな残酷で勝手なゲーム、まともにやるべきではない。
……しかし、生死を握られている以上、なおざりに出来ないというのも事実だった。
少なくとも瑠奈は本気だ。
「私を、どうするつもり……?」
「小春ちゃんはただの餌だよ。蓮くんをおびき寄せるためのね」
瑠奈は自身のスマホを取り出し、小春を写真に収めた。
【大事な小春ちゃんを助けたかったら、1人で河川敷に来ること!
武器は禁止!
リミットは日が落ちるまで。待ってるからね】