ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「な、な……っ」

 何で、と問いたいのだろうが、言葉にならなかった。

 依織は目を剥き、首に手を当てもがく。

 毒の進行は早かった。手足が麻痺し、その場にくずおれる。

 ひゅー、ひゅー、と隙間風のような呼吸を繰り返し、必死で酸素を求めた。

 拍動のたびに全身が焼けるように熱く痛い。
 苦しい。

(誰か、助けて────)

「大丈夫。禍根(かこん)が残らないように、君の死は見届けてあげるから」

 屈み込んだ冬真の微笑は優しかった。それでも、そこに温度は感じられない。

 依織は目に涙を溜めた。

 彼は、神などではなかった。

「……この……、ク……ズ……」

 絞り出したような言葉に冬真はせせら笑う。

「身から出た錆でしょ。最期の言葉どうも」

 がくがくと痙攣していた依織はやがて動きを止めた。命が尽きたのだ。

 終始沈黙を貫いていたアリスは、依織の遺体を見て気を引き締める。

 “利用価値がない”と判断されれば、次にああなるのは自分だ。

「……ねぇ。あれ、チャンスなんじゃない?」

 冬真はうららの屋敷から出てきた紗夜を指して言った。

 消沈している彼女は足取りもおぼつかない。

 アリスは一瞬考えた。何の(、、)チャンスだろう?

 依織が仕損じた紗夜を殺せ、という意味だろうか。……いや、そうではない。

 最終的にはそうなるかもしれないが、少なくとも今は、別に有効活用する術がありそうだ。

「……せやな。ちょっと行ってくるわ」

 矮小化したアリスは、紗夜を尾行した。



*



 ふと、気配を感じた紅が振り返る。高架の柱裏に影があった。

「誰だ?」

 臆せず尋ねる。その声に一同も影の存在に気が付いた。

 そこに隠れていたアリスは潔く姿を見せた。
 楽しそうに口端を持ち上げる。

「見ーつけた」

 いずれここが特定されることは予想していたが、想定よりもだいぶ早かった。

 至やうららの死を悼む暇も与えてくれない。

 スマホ片手にくるりと背を向け歩き出そうとする彼女を、咄嗟に蓮が火炎で包囲して足止めした。

「うわ」

「冬真に報告する気だな。そうはさせねぇ」

 アリスは振り返り、可笑しそうに笑った。

「どうせ、あんたらが殺せんことは分かってんで。頼みの八雲ももうおらん。何も怖くないわ。佐伯の硬直もせいぜい二十秒やろ? 手も足も出せへんのに、どうするつもりや? 止められるもんなら止めてみ」

 挑発するような言葉と態度に、蓮は憤った。

「なら、このままずっと火で囲っといてやる」

「ウケる。あんた阿呆やな」

 嘲笑したアリスは巨大化し、いとも簡単に炎を跨いだ。

 蓮たちは瞠目し、彼女を見上げる。

 巨大化はかなり目立つものだ。一見して魔術師だと露呈する。

 そのため、これまでは基本的に控えてきたが、今やもう冬真がついている。

 恐れるものなどない。

 そんな彼女の開き直りが、こちらにとっては困ったものだった。

「今ここで全員踏み潰してもええんやで? そうせず一旦退いてやるって言ってんねんから、感謝して欲しいくらいやわ」

 唇を噛み締め、強く拳を握る。

 アリスの言葉通り、こちらは手も足も出せなかった。

「あれでも守らなきゃならない対象なのか? 如月も有栖川も生かす価値などないだろう」

 律は小春に言った。

 彼女は一瞬俯くも、その意思は曲げない。

「……確かに許せるものじゃない。でも、すべての元凶はこんなゲームを始めた運営側にある」

 冬真やアリスの歪んだ性格が元来の性質だったとしても、人殺しまではしなかったはずだ。

 そうさせたのは、助長させたのは、この殺し合いゲームだ。
 間違いなく運営側のせいなのだ。

「感情的になって目的を見失っちゃ駄目。殺し合ったら、それこそ運営側の思うつぼだよ。だから私たちは殺────」

 不意に大雅が手で覆い、慌てて小春の口を塞いだ。
 彼女も蓮も、一同が戸惑う。

「何のつもりだよ」

「……言うな、それ以上」

 大雅はただそう言った。

 よく分からなかったが、気迫に圧された小春は頷く。
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