ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*
日が暮れる。星が瞬く夜だった。
暗い道を遠回りして歩いていく。
隣に小春がいる事実を、蓮は噛み締めた。
二人で帰路につき、この道を歩くのは随分と久々なように感じた。実際にはそれほどでもないはずなのに。
「……なぁ、これからどうすんだ?」
このまま家へ帰っても、眠って起きたらまたすべてを忘れている。
両親も戸惑うだろう。小春もまた、パニックになって家を飛び出したりして、それで冬真たちに見つかったり他の魔術師から襲われたりするかもしれない。
何より、せっかく取り戻した記憶を、再び失ってしまうことがやりきれない。
「記憶の回復は今日限りなんだろ」
「……でも、もう怖くないよ」
小春は蓮を見上げ、小さく笑う。
「忘れても蓮が教えてくれるんでしょ」
深く実感する。本当に小春が帰ってきてくれた。
蓮は頷き、笑い返す。
「おう、百回でも何百回でも教えてやるよ。忘れてたことを忘れるくらいな」
小春はさらに笑う。
蓮がいてくれてよかった。
……しかし、実際問題どうしたものだろうか。
正直なところ、この状態では、小春は家には帰れない。
かといって至もいなくなってしまった上、冬真たちにも場所が割れたことで、あの廃屋に戻ることも出来ない。
何処を生活の拠点にしたらいいだろう。
そのとき、小春のスマホが鳴った。見ると、紅からの着信だった。
アカウントは瑠奈を介して交換していたのだ。
「もしもし、紅ちゃん?」
『ああ、突然すまないな。水無瀬氏、君は記憶喪失なのだとか』
紅は相変わらずの古風な語り口で切り出す。
“突然”なのは電話のことだろうか。話の内容だろうか。
彼女の問いに小春は「うん……」と頷く。
『色々と困り事があるのではないか? 例えば、住む場所とか』
「それは────」
『私は学校近くのマンションで一人暮らししている。特別なもてなしは出来ないが、もし困っているなら来ても構わないぞ。住所を送っておく』
驚いたり感謝したりする隙もなく、一方的に電話が切られてしまった。
間を置かず、紅からメッセージが届く。彼女は言葉通り、住所を貼ってくれていた。
【心配するな、寝巻きなら貸すぞ】
そんなメッセージ付きで。
小春は蓮と顔を見合わせた。
思わぬ申し出だったが、この上なくありがたいものである。
小春は紅の厚意に甘えることとした。
日用品だけコンビニで調達したところ、今度は蓮の方に紅からメッセージが来た。
【向井氏に貸せる分はないから、君は自分のを持って来てくれ】
蓮は驚いたように瞬く。
「え? 俺もいいのかよ」
そう呟きながら送った。
【当然だ。水無瀬氏のそばにいると言ったのだろ?】
【記憶を失ったら自分がすべて教えてやる、と。独りにしない、と】
【向井氏がそう息巻いた記憶を確かに見たが】
立て続けにメッセージが来た。
“見た”とは、大雅から転送された小春の記憶のことだろう。
蓮は思わず口元を手で覆った。
(バレてんのかよ、恥ず……。まぁ、ほぼ全員の前で宣言したんだから変わんねぇか)
記憶を転送されていようがいまいが、あれは仲間たちに見聞きされている。
【分かったよ、ありがとな】
そう返信すると、スマホをしまう。
一旦、蓮は荷物を取りに自宅へ戻ることとした。
「寒いだろ? 中で待ってろよ」
「いいよ、家の人に悪いからここで」
ドアに手をかけ促したが、小春は首を左右に振った。
仕方がない。彼女を玄関前で待たせ、蓮は速攻で支度すると家を飛び出した。
「……!?」
しかし、待っていたはずの小春の姿はなかった。
この一瞬で何かよくないことが起きたとでも言うのだろうか。
青ざめた蓮が慌てて道路へ飛び出すと、そこにはぽつんと人影が佇んでいた。
「…………」
小春が、自身の家を見つめ立ち尽くしていた。
日が暮れる。星が瞬く夜だった。
暗い道を遠回りして歩いていく。
隣に小春がいる事実を、蓮は噛み締めた。
二人で帰路につき、この道を歩くのは随分と久々なように感じた。実際にはそれほどでもないはずなのに。
「……なぁ、これからどうすんだ?」
このまま家へ帰っても、眠って起きたらまたすべてを忘れている。
両親も戸惑うだろう。小春もまた、パニックになって家を飛び出したりして、それで冬真たちに見つかったり他の魔術師から襲われたりするかもしれない。
何より、せっかく取り戻した記憶を、再び失ってしまうことがやりきれない。
「記憶の回復は今日限りなんだろ」
「……でも、もう怖くないよ」
小春は蓮を見上げ、小さく笑う。
「忘れても蓮が教えてくれるんでしょ」
深く実感する。本当に小春が帰ってきてくれた。
蓮は頷き、笑い返す。
「おう、百回でも何百回でも教えてやるよ。忘れてたことを忘れるくらいな」
小春はさらに笑う。
蓮がいてくれてよかった。
……しかし、実際問題どうしたものだろうか。
正直なところ、この状態では、小春は家には帰れない。
かといって至もいなくなってしまった上、冬真たちにも場所が割れたことで、あの廃屋に戻ることも出来ない。
何処を生活の拠点にしたらいいだろう。
そのとき、小春のスマホが鳴った。見ると、紅からの着信だった。
アカウントは瑠奈を介して交換していたのだ。
「もしもし、紅ちゃん?」
『ああ、突然すまないな。水無瀬氏、君は記憶喪失なのだとか』
紅は相変わらずの古風な語り口で切り出す。
“突然”なのは電話のことだろうか。話の内容だろうか。
彼女の問いに小春は「うん……」と頷く。
『色々と困り事があるのではないか? 例えば、住む場所とか』
「それは────」
『私は学校近くのマンションで一人暮らししている。特別なもてなしは出来ないが、もし困っているなら来ても構わないぞ。住所を送っておく』
驚いたり感謝したりする隙もなく、一方的に電話が切られてしまった。
間を置かず、紅からメッセージが届く。彼女は言葉通り、住所を貼ってくれていた。
【心配するな、寝巻きなら貸すぞ】
そんなメッセージ付きで。
小春は蓮と顔を見合わせた。
思わぬ申し出だったが、この上なくありがたいものである。
小春は紅の厚意に甘えることとした。
日用品だけコンビニで調達したところ、今度は蓮の方に紅からメッセージが来た。
【向井氏に貸せる分はないから、君は自分のを持って来てくれ】
蓮は驚いたように瞬く。
「え? 俺もいいのかよ」
そう呟きながら送った。
【当然だ。水無瀬氏のそばにいると言ったのだろ?】
【記憶を失ったら自分がすべて教えてやる、と。独りにしない、と】
【向井氏がそう息巻いた記憶を確かに見たが】
立て続けにメッセージが来た。
“見た”とは、大雅から転送された小春の記憶のことだろう。
蓮は思わず口元を手で覆った。
(バレてんのかよ、恥ず……。まぁ、ほぼ全員の前で宣言したんだから変わんねぇか)
記憶を転送されていようがいまいが、あれは仲間たちに見聞きされている。
【分かったよ、ありがとな】
そう返信すると、スマホをしまう。
一旦、蓮は荷物を取りに自宅へ戻ることとした。
「寒いだろ? 中で待ってろよ」
「いいよ、家の人に悪いからここで」
ドアに手をかけ促したが、小春は首を左右に振った。
仕方がない。彼女を玄関前で待たせ、蓮は速攻で支度すると家を飛び出した。
「……!?」
しかし、待っていたはずの小春の姿はなかった。
この一瞬で何かよくないことが起きたとでも言うのだろうか。
青ざめた蓮が慌てて道路へ飛び出すと、そこにはぽつんと人影が佇んでいた。
「…………」
小春が、自身の家を見つめ立ち尽くしていた。