ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
写真とメッセージを送信した瑠奈に、小春は毅然と呼び掛けた。
運営側に、命を盾にされている同士だと思えば、いくらか恐れる気持ちも薄まる。
「……元に戻して。拘束を解いて」
「え? 嫌だよ、そんなことしたら逃げるでしょ?」
戦う手段を持たない以上、逃げるが勝ちだ。
当然そのつもりなのだが、小春は首を横に振った。眉を寄せる。
「よく分かんないけど……私が死んだら困るんでしょ? 解いてくれないなら、このまま……石化されたまま死ぬ」
瑠奈は小春の言葉に考え込んだ。
その場合も瑠奈が殺害した判定になるのだろうか。
石化している時点で関与は確実と言えるし、もしその判定になるのなら、困るどころの話ではない。
蓮への脅迫メッセージは送った。餌は撒いた。
もう小春の役目はないに等しい。
もともと用があるのは小春ではなく、魔術師である蓮の方なのだ。
「分かったよ。でも逃げずに一応ここにいてよね。蓮くん、小春ちゃんが無事って分かったら私と戦ってくれないかもしんないからさ」
瑠奈は言いながら再びステッキを振った。今度は石化が解けていく。
足に感覚が戻ると、長時間正座をしていたときのように強く痺れた。
小春は思わず、がくんと座り込む。
「その様子じゃしばらくは動けないと思うけど、もし逃げたら────」
瑠奈は鞄から何かを取り出した。昨日消えたはずの、和泉の左手だった。
それを目にした小春は息をのむ。
楽しそうな笑みを湛えた瑠奈は、掲げた左手の石像を離した。
コンクリートに叩き付けられ、和泉の左手はバラバラに砕け散る。
「こうなるから」
ぞくりとした。
小春は知らなかった。
瑠奈がこれほど残虐な本性を持ち合わせていることを。
それは、あるいはこのゲームがそうさせているのかもしれないが。
「殺したら確かにまずいことになるんだけど、これくらいなら問題ないからね」
ステッキ片手に瑠奈は小春と距離を詰める。
「勘違いしないでよ? 小春ちゃんに危害を加えることが出来ないわけじゃない。あ、何なら今やっとく? 戒めのために……」
歩み寄ってくる瑠奈から、小春は反射的に後ずさった。
まだ、足には力が入らない。立ち上がることすら出来ない。
(どうしよう……!? 助けて、誰か────)
まるで死神のような瑠奈にすっかり恐れおののき、小春は声すら出せなかった。
心臓が高速で脈打つ。頭の中に危険信号が鳴り響く。
とん、と小春の背に壁が当たった。絶望が立ちはだかっていた。
瑠奈は揚々とステッキを掲げる。
「小春ちゃん、右利きだったよね。……なら、右手にしよっか?」