ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
第20話 11月27日[前編]
他愛もないことを夜通し話していた────つもりだった。
明け方、小春と蓮は眠りに落ちていた。
向かい合うような形で布団の上に横たわっている。
ただでさえ濃い一日だった。致し方ない。
「!」
はっと目覚めた蓮は、目の前で眠る小春を認めた。
白んだ朝の柔らかい光が肌に影を落とし、その存在感を際立たせている。
夢じゃない。彼女はちゃんとここにいる。
その事実を噛み締めつつも目を伏せた。
「…………」
リセットされた。また、ゼロからだ。
思わず切なげな表情で笑う。もう昨日の小春はいない。
そっと手を伸ばし、頬にかかった髪を流してやる。
そのとき、傍らに置いていた蓮のスマホが震えた。奏汰からのメッセージだった。
【どうなった?】
昨夜の時点で、奏汰には紅の家に小春と二人して世話になることを伝えていた。
小春の記憶のことも兼ね、心配してくれているのだ。
【寝ちまった。起きてるつもりだったのに】
【小春ちゃんも?】
【うん】
「ん……」
ふと、小春が目を覚ました。
蓮の存在に気が付くと、驚いたように目を見張る。勢いよく起き上がり、彼を凝視した。
「あー、っと」
蓮は少し焦った。
ここで不審者認定でもされたら、今日一日中そういう印象を抱かれ続けることになってしまう。
信頼を失いたくはない。
「俺は向井蓮だ。お前は水無瀬小春な。俺たちは今ウィザードゲームとかいう、わけ分かんねぇゲームに巻き込まれてて……お前はガチャのせいで記憶を────」
もともと何かを説明することが苦手であるのに加え、焦りも相俟ってさらに要領を得なくなった。
器用な至なら、もっと上手く説明していただろう。
そんなことを思ったとき、小春が口を開いた。
「蓮」
「え? おう……、何だ」
反射的に返事をしてから、すぐに違和感を覚える。
記憶をなくした小春は以前“蓮くん”と呼んでいた。だが、今────。
「蓮、無事だったんだね。よかった」
明らかに、記憶を失っている人物の言葉ではない。
そして、彼女は何を言っているのだろう。
困惑する蓮は咄嗟に言葉が出ない。
「でも何でわざわざまた説明してくれたの? ……あ、それより私、実はガチャ回しちゃったの。えっと、何の魔法だっけ……?」
「ちょっと、待て」
蓮は慌てて彼女を制した。
分からない。どういうことなのだ。
「何言ってんだ……? 覚えてるのか?」
「覚えて?」
小春も首を傾げた。
何からどう聞けばいいのか、蓮も混乱していた。
「俺の名前は?」
「蓮でしょ、向井蓮。どうしちゃったの? 何を────」
「自分の名前は?」
「え、と……水無瀬小春」
蓮は頭を抱える。冷静さを欠いていた。
(違う、そうじゃなくて)
こんなことを聞いても意味がない。それは先ほど自分で説明したのだ。
そのとき、扉がノックされた。紅が顔を覗かせる。
「二人とも────」
「あいつが誰か分かるか?」
何かを言いかけた紅を指し、蓮は小春に尋ねた。
小春は彼女を見つめる。何となく状況を察した紅は黙っていた。
「分かんない……」
ややあって、小春は答える。
不安気に眉を寄せ、きょろきょろと辺りを見回した。
「ここ、何処なの? 何で私……公園にいたはずじゃ────」
戸惑ったような彼女の様子に、蓮たちはさらに戸惑っていた。
公園とはいったい何の話だろう。少なくとも昨日は公園になどいなかった。
しかし、そういう覚えがある、ということは、記憶はゼロまではリセットされていないのかもしれない。