ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
高架下で足を止めた冬真は大雅と律にそれぞれ目をやり微笑んだ。
随分と機嫌がよさそうだ。
「昨日、アリスにここを聞いて来てみたら誰もいなかったんだよね。逃げられたかと思ったけど、ヨルと君のお陰で好機を得た。感謝するよ」
してやったり、とでも思っているのだろうか。
大雅は笑う。
「それはこっちの台詞だ。瑚太郎が瑚太郎じゃねぇことは予想してた。瑚太郎だったらいいなとは願ってたけどな、八割ヨルだと思ってたよ」
「その上で呼び出したんだ。頭のいい如月なら、この意味が分かるだろう?」
挑発するように律が続いた。
冬真は笑みを消し、目を細める。
「……へぇ。僕に用があるってわけ?」
餌にされたことに気が付いたヨルは眉を吊り上げる。早くも憤慨し、手に水を纏わせた。
ちゃぷ、と雫が散る。
「おい、あいつら殺していいか?」
「まだ駄目。聞かなきゃならないことがあるから」
まだ、他の仲間たちの居場所を聞き出す必要がある。
不服そうに舌打ちしたものの、ヨルは大人しく引き下がった。
意外なことに彼は終始、冬真には従順だ。
恐らく、彼が瑚太郎ではなくヨルを優先的に扱ってくれるからだろう。
ヨルを認め肯定しているわけではなく、単にその方が自分にとって都合がいいからに過ぎないのに。
いいように利用されていることに気付いていないのだろうか。
あるいは、承知の上で縋っているのだろうか。
「!」
不意に伸びてきた蔦が律を捕らえた。
「……おい、何してんだよ」
「優しい優しい君は……自分が苦しむより、仲間が苦しむ方が辛いでしょ?」
大雅は表情を険しくした。
必死で怒りを堪える。
「平気だ、桐生。俺に構う必要はない。やるべきことをやれ」
制するように律が言う。
確かめるように彼を見据えた大雅は、やがて歯を食いしばりつつ背を向けて駆け出した。
「えぇ、逃げるの? 大雅らしくない選択だな。……それとも、よっぽど僕が怖い? まぁ、何度も何度も封じ込められてるからね。トラウマになるのも無理ないけど」
ヨルは鋭く大雅を目で追った。
「あいつはオレが殺るぞ」
素早く彼を追い走っていく。
冬真としても、律という情報源を確保した以上、別に大雅はどうでもよかった。
出来れば憎らしくも可愛い元手下をこの手で殺したかったが、この際構わない。
「見捨てられちゃったね、律。おかえり、僕のもとへ」
「……嬉しそうだな。俺たちの掌の上にいるとも知らず」
律は口角を上げる。
強気な彼の態度に冬真は少し怯んだ。何なのだろう、彼のこの余裕は。
「何……?」
「皮肉なものだよな。操り人形の糸を引く立場にあるお前が、今度は人形の側になるんだから」
言っている意味が分からず、冬真は困惑した。
律は構わず畳み掛ける。
「お前の負けだ」
*
大雅は足を止めた。律からは充分に距離を取ることが出来ただろう。
逃げたのではなく、律に害を被らせないため、そして冬真の妨害を受けないために離れたのだった。
ヨルなら追ってくるはずだ、と踏んだのはやはり間違いではなかった。
「鬼ごっこはおしまいか?」
彼は嘲笑しながら言う。
それを耳にゆるりと振り向いた。
「……瑚太郎、お前何やってんだよ」
その名を出すと、彼の顔から笑みが消えた。
眉間に皺を寄せ、大雅を睨めつける。
「あ?」
「まだ朝だぞ。何こいつに身体明け渡してんだよ」
ヨルは苛立ちを募らせていく。
(……どいつもこいつも、何も分かっちゃいない)
「聞こえてんだろ? お前に言ってんだよ、瑚太郎」
大雅がそう言った瞬間、飛んできた何かが頬を掠めた。
熱い、と感じると同時に血が滲む。
ヨルの放った水弾だった。
「馬鹿が。死にてぇのか」
射るような眼差しで凄む。
しかし、大雅は一切怯まない。
「黙ってろよ。俺は瑚太郎と話してんだ」
「黙るのはてめぇだ。あいつはもういねぇんだよ」
「適当なこと言ってんじゃねぇ。瑚太郎を返せよ」
あえて何度も彼の名を呼んだ。
ヨルに押さえ込まれているであろう彼に届くことを願って。