ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 瑚太郎は涙混じりに懇願した。

 それしかヨルを封じる方法はないのだ。

 大雅にも気持ちは理解出来る。理由に納得も出来る。

 だが────と思い直す。
 思わず気圧されたものの、首を左右に振った。

「……嫌だ、絶対に」

 それが正しいとはとても思えない。

 そんな判断が許されていいはずがない。

 それでこの問題に終止符を打つようなことになれば、すべてを瑚太郎のせいにして終わるのと同義だ。

「大雅くん!」

「もういい、黙ってろ。俺はやらねぇからな!」

 抗議するような瑚太郎の声を聞きながらも、大雅は彼を放した。

 それきり瑚太郎の声は聞こえなくなる。

 大雅は荒い呼吸を繰り返し、たたらを踏んだ。頭を抱える。

 割れるような頭痛がした。心臓が脈打つのに合わせ、痛みが波動のように広がる。

 息が苦しい。肺を捻られているようだ。

「う……っ」

 しかし、ヨル封じるのに唯一有効な手段はこれしかない。大雅が操作状態でいるしかない。

 ずっとは無理だが、少なくとも今は────。

 かぶりを振る。気を持ち直す。

 律の安否が気にかかった大雅は傷を押さえつつ、おぼつかない足取りながら、操っている瑚太郎とともに高架下の方へ歩き出した。



*



「何処が僕の負けなの?」

 冬真は嘲笑う。

 拘束された律は抗う術もなく、いとも簡単に絶対服従状態になった。

 こんな調子で彼の何処に勝機があるのだろう。

 自分の何処に負ける要素があると言うのだろう。

 見掛け倒しにも程がある。

「抵抗するなよ。大雅にテレパシー送るのも禁止」

 そう命じた上で冬真は彼の蔦をほどいた。

「君と大雅以外の仲間たちは何処にいる?」

「さぁな。そんなこと俺に聞かれても知らない」

 意外なことに、服従させられても律の態度は変わらなかった。

 まさか、これも作戦のうちとでも言うのだろうか。

「じゃあ別のことを聞こう。時間停止の魔術師、彼女の名前は?」

「……藤堂紅。そんなことを聞いてどうする」

「停止出来る時間は最大でどのくらい?」

「一分間だが」

 さすがにこれらの問いかけには素直に答えた。

 術にはしっかりとかかっているようだ。冬真はせせら笑う。

「滑稽だな。強気に勝利宣言した割には、何の打開策もなさそうだけど?」

 事ある毎に冬真は律を挑発したが、彼は乗らなかった。悔しがることもしない。

 冬真にはそんな律の態度が不服でもあり怪訝でもあったが、追及したら負けな気がした。余裕がないと認めることになりそうで。

 自分が既に負けている、とは考えにくいが、これ以上彼と対峙していたくなかった。妙な違和感がある。

 想定外の出来事が起きてからでは遅い。

 禍根はさっさと断つべきだ。

「……律、残念だけどお別れだ。今まで楽しかったよ。それじゃ────その橋から飛び降りて死ね」

 冬真は最後の命令を下した。

 律の足が意思とは関係なく橋に向かっていく。
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