ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*
『すまないが私はやることがある。先に行っていてくれ』
そう言った紅を置いて、小春と蓮は星ヶ丘高校へ急速飛行した。
大雅の言っていた通り、旧校舎の方はフェンスに穴が空いており、誰でも侵入可能な状態だった。
そこから中へ入るも、まるで人気がない。大雅と律の姿もない。
小春は顳顬に触れる。
「大雅くん、大丈夫?」
いつもならすぐに反応があるのに、彼からの返答は一向になかった。
胸騒ぎがする。嫌な予感が膨らんでいく。
同じ感覚を覚えた蓮は彼に電話をかけた。しかし、どれだけ待っても応答なしだ。
膨張した不安感は爆発寸前だった。
信じたくない可能性が脳裏を過ぎる。
「嘘だったの……?」
……大雅は嘘をついたのだろう。
星ヶ丘高校へ行くというのも、助けて欲しいというのも嘘だ。
小春たちを、仲間たちを守るための嘘。
当初の予定通り、大雅と律の二人だけで決着をつけに行ったのだ────冬真たちと。
「くっそ……!」
蓮は苛立ちを顕にフェンスを殴った。小春もただただ動揺し消沈した。
応答がないということは、つまりそういうことだろう。
信じられなくても、事実はこちらの心情になど構ってくれない。
大雅と律を失っても、冬真の脅威は止まない。今なお迫ってきている────。
瑚太郎のことも心配だった。いや、ヨルなのだろうか。
いったいどうなったのだろう。蓮は昨日の時点で彼にも電話をかけたが、連絡はつかなかった。
「……やはりな」
紅が姿を現した。
重苦しく沈んだ空気から事態を察する。
否、そもそも先ほどの大雅とのやり取りの時点で八割以上こうなることを予測していた。
小春も蓮も俯いたまま顔を上げない。
……救えなかった。間に合わなかった。
自責の念が絡みつく。
いくら現実を受け入れることを拒絶しても、悲しみとやるせなさに引きずり込まれた。
「一度、状況を共有してはどうだ?」
一人、冷静な紅が提案する。
ほとんど言われるがままに、小春と蓮は他の仲間たちと連絡を取った。
連絡のついた面々は瑠奈、奏汰、日菜、紗夜だ。
少なくとも彼女たちの生存は確認出来た。
大雅と律が恐らく冬真たちに敗れてしまったこと、瑚太郎の現状が不明であることをそれぞれに伝えておく。
「これからどうしたらいいのかな……」
小春は力なく呟いた。
大きな喪失感が、心にぽっかりと穴を空ける。
これまで積極的に全員をまとめ、能動的に動いてきてくれた大雅。
律を説いてくれたのも彼だ。
記憶の件に関しても、彼には本当に助けられた。
それなのに彼が危険なとき、そばにいることさえ出来なかった。
結局、最後まで守られっぱなしだ────。
「……なぁ、あいつ引き込めねぇかな」
ぽつりと蓮が言う。
「あいつ?」
「雪乃」
聞き返した紅に彼は答えた。
少しでも仲間は増やしたいし、雪乃の魔法があれば実質的に蘇生も可能である。
はたと小春は思い至った。
大雅たちの死亡はかなり濃いとはいえ、正確にはまだ未確定だ。
テレパシーや電話も、弱っていて応えられなかったか、服従させられていただけかもしれない。
既に死んでしまっているとしても、二分以内かもしれない。
もしそうなら、今すぐ雪乃に会えば、時を戻して生き返らせることが出来るかもしれない。
「そうだね、雪乃ちゃんなら……」
小春自身、一度蘇生して貰った。
彼女の能力は身をもって知っている。
蓮は頷いた。自分が以前頼んだときは断られたが、小春の申し出なら雪乃も無下にはしないだろう。
「一刻を争う。今すぐ飛んで行くのだ」
「俺も行く」
ここへ来たとき同様、小春は蓮とともに浮かび上がる。
「私も名花へ向かう。そこで落ち合おう」
紅が言った。小春は頷く。
冬真やアリス、依織に見つからないよう、光学迷彩の結界を張った。
『すまないが私はやることがある。先に行っていてくれ』
そう言った紅を置いて、小春と蓮は星ヶ丘高校へ急速飛行した。
大雅の言っていた通り、旧校舎の方はフェンスに穴が空いており、誰でも侵入可能な状態だった。
そこから中へ入るも、まるで人気がない。大雅と律の姿もない。
小春は顳顬に触れる。
「大雅くん、大丈夫?」
いつもならすぐに反応があるのに、彼からの返答は一向になかった。
胸騒ぎがする。嫌な予感が膨らんでいく。
同じ感覚を覚えた蓮は彼に電話をかけた。しかし、どれだけ待っても応答なしだ。
膨張した不安感は爆発寸前だった。
信じたくない可能性が脳裏を過ぎる。
「嘘だったの……?」
……大雅は嘘をついたのだろう。
星ヶ丘高校へ行くというのも、助けて欲しいというのも嘘だ。
小春たちを、仲間たちを守るための嘘。
当初の予定通り、大雅と律の二人だけで決着をつけに行ったのだ────冬真たちと。
「くっそ……!」
蓮は苛立ちを顕にフェンスを殴った。小春もただただ動揺し消沈した。
応答がないということは、つまりそういうことだろう。
信じられなくても、事実はこちらの心情になど構ってくれない。
大雅と律を失っても、冬真の脅威は止まない。今なお迫ってきている────。
瑚太郎のことも心配だった。いや、ヨルなのだろうか。
いったいどうなったのだろう。蓮は昨日の時点で彼にも電話をかけたが、連絡はつかなかった。
「……やはりな」
紅が姿を現した。
重苦しく沈んだ空気から事態を察する。
否、そもそも先ほどの大雅とのやり取りの時点で八割以上こうなることを予測していた。
小春も蓮も俯いたまま顔を上げない。
……救えなかった。間に合わなかった。
自責の念が絡みつく。
いくら現実を受け入れることを拒絶しても、悲しみとやるせなさに引きずり込まれた。
「一度、状況を共有してはどうだ?」
一人、冷静な紅が提案する。
ほとんど言われるがままに、小春と蓮は他の仲間たちと連絡を取った。
連絡のついた面々は瑠奈、奏汰、日菜、紗夜だ。
少なくとも彼女たちの生存は確認出来た。
大雅と律が恐らく冬真たちに敗れてしまったこと、瑚太郎の現状が不明であることをそれぞれに伝えておく。
「これからどうしたらいいのかな……」
小春は力なく呟いた。
大きな喪失感が、心にぽっかりと穴を空ける。
これまで積極的に全員をまとめ、能動的に動いてきてくれた大雅。
律を説いてくれたのも彼だ。
記憶の件に関しても、彼には本当に助けられた。
それなのに彼が危険なとき、そばにいることさえ出来なかった。
結局、最後まで守られっぱなしだ────。
「……なぁ、あいつ引き込めねぇかな」
ぽつりと蓮が言う。
「あいつ?」
「雪乃」
聞き返した紅に彼は答えた。
少しでも仲間は増やしたいし、雪乃の魔法があれば実質的に蘇生も可能である。
はたと小春は思い至った。
大雅たちの死亡はかなり濃いとはいえ、正確にはまだ未確定だ。
テレパシーや電話も、弱っていて応えられなかったか、服従させられていただけかもしれない。
既に死んでしまっているとしても、二分以内かもしれない。
もしそうなら、今すぐ雪乃に会えば、時を戻して生き返らせることが出来るかもしれない。
「そうだね、雪乃ちゃんなら……」
小春自身、一度蘇生して貰った。
彼女の能力は身をもって知っている。
蓮は頷いた。自分が以前頼んだときは断られたが、小春の申し出なら雪乃も無下にはしないだろう。
「一刻を争う。今すぐ飛んで行くのだ」
「俺も行く」
ここへ来たとき同様、小春は蓮とともに浮かび上がる。
「私も名花へ向かう。そこで落ち合おう」
紅が言った。小春は頷く。
冬真やアリス、依織に見つからないよう、光学迷彩の結界を張った。