ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
小春は彼女に向き直る。
「その時間停止魔法、今は何秒止めていられるの?」
紅は一瞬目を見張り、すぐに普段の無感情に戻った。
目を伏せる。
「……劣化のことでも聞いたのか。確かに私も例外ではない」
確かに魔法は劣化している。
河川敷の高架下でアリスを拘束した際も、一分と経たずして限界が来た。
四十六秒……次に止めるときにはもっと短いはずだ。
停止可能な秒数の減少の仕方に規則性があるわけではないため、小春の問いにははっきりと答えられない。
分からないが四十六秒未満、というのが回答だった。
「ごめんね、あたしのせいで……」
瑠奈はしおらしく謝った。
失踪していたとき、幾度となく時間停止で助けて貰ったのだ。
「何を言うのだ。胡桃沢氏のせいではない」
「だけど、今後は考えて使わないと、肝心なときに大変なことになる……」
紗夜が物憂げに言った。その通りだ。
これ以上劣化させないため、なるべく使わないようにしたいが、冬真たちが不意に襲ってきたときは使う他ない。
今となっては、紅の魔法だけが頼りだ。
「ねぇ、とりあえずメッセのグループでも作らない?」
あえて明るく瑠奈は言った。
大雅を失ったとなると、今後の指針を立てるにあたり、全員の意思疎通に滞りが生じる。
ここにいる面子に日菜を加え、メッセージアプリでグループを作った。
今後はこれを通してコミュニケーションを図ることになるだろう。
「助けが必要なときには、遠慮も躊躇もしないですぐに言ってね」
小春は全員を見回しつつ言った。
────ふと、ロック画面に表示された日付が目に入る。
十一月二十七日。
“時間がない”という、大雅の言葉を思い出す。
勘違いしてはいけないのは、十二月四日に何かが起きるのではなく、十二月四日にはすべてが終わる、ということだ。
運営側への逆襲という大それた目的を遂げるにしろ、為す術なく全滅するにしろ、十二月四日はリミットなのだ。
そんなことを考えていると、不意にスマホが鳴った。
「!」
「わ、何?」
その場にいる全員のスマホが、だ。
見ると、ウィザードゲームのアプリからの通知だった。
こんなこと、今までになかったのに。
訝しみながら、各々アプリを開く。
“中間発表”と、銘打たれたメッセージが届いていた。
【12月4日まで、残り7日となりました。
現在の生存者を発表するよ〜!
※本日からは毎日午前9時に公表されます。
・朝比奈 莉子
・雨音 紗夜
・有栖川 美兎
・如月 冬真
・胡桃沢 瑠奈
・五条 雪乃
・斎田 雄星
・佐伯 奏汰
・藤堂 紅
・三葉 日菜
・水無瀬 小春
・向井 蓮
以上、12名。
各自殺し合い、頑張って生き残ってください】
小春は驚いた。ほとんどがここにいる人物であり、そうでない者でも面識はある。
だが、納得と言えば納得だった。自分たちは守り合いながらここまで来たのだから。
十二人という人数を多いと見るか少ないと見るかは微妙だった。
魔術師に選ばれた高校生の全数は不明だが、それでも随分と減っているはずだ。
「……ないな、あいつらの名前」
蓮が呟いた。感情が揺れる。
やはりと言うべきか、大雅と律は亡くなっていた。
さらには瑚太郎の名前もない。結城依織の名前もだ。
瑚太郎も依織も如何にして命を落とす羽目になったのだろうか。
そして、今朝の連絡の後、大雅たちに何があったのだろうか。
確かめるには冬真に聞くしかないが、現実的にそれは不可能だろう。
「百合園さんを襲った後、結城さんに何があったんだろう」
「私の毒が回ったんだと思う……」
紗夜は小さく答える。
咄嗟のことだったとはいえ、結果的に自分が殺してしまったのだ。
「冬真くんが手を貸してたんでしょ? もしかしたら、うららちゃん殺害を果たしたイコール用済みってことで、始末したのかもよ」
「それもありうるよな。冬真のことだし」
瑠奈の言葉に蓮は同調した。
「ところで、この朝比奈氏と斎田氏とやらについては把握しているのか?」
「ああ。そいつらはな、名花の魔術師だ。雪乃いじめの主犯格で付き合ってる」
「要するにカスカップルってわけね……」
紗夜は容赦なく蔑むように言った。
あの二人は恋人同士だが、最終的な意向は不明だ。保有している魔法も不明である。
小春の信念によれば、彼女たちも守るべき対象に含まれているのだろうが、積極的に手を取り合いたい連中ではなかった。
莉子たちとはゲームについて話し合う気も、関わり合う気もない。
「如月氏や有栖川氏といい、その二人といい、守る価値なんてなさそうだが」