ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 腕を組み、紅が淡々と言ってのけた。

 全員、その気持ちは理解出来る。小春も否定はしなかった。

「……でも、守る命と切り捨てる命を選んだら、何だか運営側の連中と同格になっちゃう気がする」

 命を弄んだり生死を左右したりする資格は、自分にはないのだ。

 その性根に関係なく、魔術師たちは皆同じ立場なのだから。

 勿論、冬真やアリスのことは、許せない、というのが本音だった。

 仲間たちの、そして他にも多くの人の命を奪った。

 だが、彼らとてこんなゲームに巻き込まれなければ、普通の高校生として生きていたはずだ。家族や友だちだっている。

 許せないという感情だけで同じことをし返せば、悲しみの連鎖が続くだけだろう。

 そんなことはしたくなかった。

「……そうだな」

 小春が“殺害”という手段を取らない理由には、充分納得がいった。反論はない。

 ただの綺麗事ではなかった。
 それほどまでに強固な信念を持っていたとは。

「だけど、それはそれとして。現実問題、如月やアリスを何とかしないとでしょ……」

 紗夜が言う。

 怨恨や因縁は根深いが、殺害して復讐するという選択肢はない。

「私がやろう」

 紅が名乗りを上げた。

 時間を止めることに対しては、誰がどんな手を使おうが対処不可能だ。

 停止した世界は、術者の掌の上なのである。

「でも、劣化と反動が……」

「問題ない。拘束することくらい出来る」

 彼女を案ずる声が上がっても、紅は気丈に跳ね除けた。

 ……やるしかない。自分にしか出来ない。
 とっくに覚悟は決まっている。

「分かった」

 一行は冬真とアリスを捜索することとした。

 何処にいるだろうか。

 これまで冬真は星ヶ丘高校の屋上を主な拠点としていたようだが、それは既にこちらにも露呈している。

 大雅も律もいなくなり、最早そこに固執する必要などなくなったはずだ。

「そういえば、アリスに河川敷の高架下がバレたんだったよな」

 昨日はそれで彼らが来ることを危惧して解散した。
 だったら────。

「そこにいれば来るんじゃ……?」



*



「……っ!」

 目覚めた冬真は顔を歪め、両手で頭を押さえた。

 ズキズキと激しい頭痛に襲われる。意識の明瞭化とともに徐々に治まっていく。

 いったい何をしていたんだったか、と思いを馳せると、ほんのりと曖昧に蘇ってくる。
 ……誰かと戦っていたのだ。

(それで、どうなったんだっけ……?)

 身を起こし、周囲を見回す。

 血まみれで倒れている律と瑚太郎がまず目に入った。

 はっと息をのみ、狼狽する。

 慌てて駆け寄ったが、既に彼らの息はない。

 何があったのだろう。何故、思い出せないのだろう。自分たちは誰と戦っていたのだろうか。

「…………」

 冬真は立ち上がり、二人に黙祷を捧げた。

 もう一人、倒れている男子生徒のことは何となく把握している。

 声を借りているのだ。“たまたま事故死した”彼を傀儡にして。
 すっ、と屈み、彼に触れる。

 傀儡の男子生徒を伴い彷徨うように歩くうち、大雅を見つけた。こちらも息がない。

(何だ……?)

 自分だけ無傷で生き残るなんて、本当に何があったというのか。

 混乱したものの、仲間の(、、、)遺体を放置出来ず、大雅を律と瑚太郎のいる高架下へと運んだ。

 切り傷や銃創だけでなく、血を吐いた痕跡がある。目や耳、鼻からも出血しているようだ。

 身体の内側を損傷したのだろうか。そんな魔法があっただろうか?



 そのとき、ざっ、と不意に数人の足音がした。
 冬真は顔を上げる。

「!」

 ────小春たちと目が合った。
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