ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
冬真の姿。大雅や律、瑚太郎の遺体。地面を染める赤黒い血。
それらを見比べ、小春たちはひどく動揺した。
衝撃的な光景だった。
蓮は鋭く冬真を睨みつける。
「……お前がやったのか」
責めるような懐疑の目に、冬真は戸惑った。
「違う。僕が仲間に手をかけるはずない」
ふるふる、と首を左右に振る彼に困惑してしまう。
「“仲間”……?」
倒れている三人は、確かにもともと冬真の一味だった。
しかし、今は違う。
ヨルはともかく、大雅も律も冬真とは完全に決裂していた。
彼らを殺そうとまでした冬真が“仲間”などと称するのはおかしい。
それに、何だか様子が変だ。
この間相見えたときとは明らかに人が違う。演技をしているのだろうか。……何故?
「有栖川さんは何処に?」
「知らない。彼女は裏切り者だ」
奏汰の問いかけに冬真はそう答えた。
冬真のことも裏切ったのだろうか。
一同はそう思い至ったものの、不意に運営側が送ってきた生存者リストを思い出す。
冬真を裏切ってまで取り入るような相手はいないはずだ。
……何だろう。何かがおかしい。
警戒心と違和感が膨らんでいく。
身構えてここまで来たのに、何だか冬真からは殺意や敵意が感じられないのだ。
「何が、あったの?」
小春が尋ねると、冬真は力なく首を横に振る。
「分からない……。誰かと戦ってたはずなんだけど、気付いたら意識を失ってた。目が覚めたら皆死んでた。何があったのか、まったく思い出せない」
“思い出せない”という言葉にはっと閃いた。
まさか律が……?
横たわる彼を思わず見やる。律が決死の覚悟で記憶操作を施したのではないだろうか。
お陰で冬真は、こちらへの敵意を忘却してくれた。
否、それだけではない。冬真の中では、小春たちとは仲間だという認識に恐らく書き換わっている。
つまり、邪心も野心も忘却の彼方で、今後は味方ということ────なのだろうか。
それぞれ、惑ったように顔を見合わせる。
困った。どうしたものだろう。
その結論が正しいという確信が欲しい。過程を知りたいのに冬真は覚えていないし、ほかに知っている者もいない。
いや、覚えていたらまた振り出しだ。
忘れていてくれた方がいい、はずなのだが……。
「…………」
一度俯いた蓮は、ふと大雅の傍らに屈んだ。
「馬鹿野郎……」
固く目を閉じ、血まみれで息絶えている彼の襟を、ぎゅう、と掴んだ。
「お前に助けて貰ってばっかじゃねぇかよ。いつも……小春が消えたときも、戻ってきたときも、お前は助けてくれたのに。俺は……」
小春も呼吸を震わせる。じわ、と視界が滲む。
「仲間だって、助けに行くって、言ったのに……」
「佐久間くんも佐久間くんだよ。なに最後にかっこつけてくれてんの……」
呟いた小春に奏汰も続いた。
紅は鋭く律の遺体と冬真を見比べる。
こちらに隙が生まれても、冬真の態度は変わらなかった。
術者が死んでも記憶操作は解除されないらしい。
やはり冬真の脅威は、律の記憶操作により去ったわけだ。
ふと、瑚太郎のそばに屈んだ瑠奈は、その顳顬の弾痕を指した。
「これ、自分で……?」
痕跡的にそうとしか考えられない。
ヨルに乗っ取られるくらいなら────と、自我のあるうちに死を選んだのだ。
「……っ」
皆を守るために。
三人が三人とも、そのために命を擲った。
不意に、それぞれの遺体が光に包まれた。一瞬の閃光の後、忽然と消えてしまう。
残ったのは血溜まりだけだ。
「うそ、消えた……」
信じられないと言うように瑠奈が呟く。
紅は小春を一瞥した。
「わ、私じゃないよ」
確かに小春も閃光で目眩しをすることは出来るが、今のは違う。
以前に屋上で慧の遺体が消えたときと同じだった。
魔術師の死体は天界に還るのだ。一定時間が経過するとそうなるのだろう。
ただ今回は、明らかに死亡後の処理が速い。
もともと“死亡後何分で遺体が消える”というような規則性はないのか、それとも人数が減ったことや終わりが近いことが関係しているのかは不明だが。