ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
第21話 11月27日[後編]
「……マジか」
冬真からのメッセージを受け取ったアリスは呟く。
別行動をしていたのは、紅の捜索に向かっていたためだった。
冬真が先に見つけてしまうとは。
いよいよまずいだろうか。
彼に“使えない”と判断されれば、容赦なく殺されるだろう。特にアリスのような人間は。
とはいえ、紅が見つかったのは幸いと言うべきだ。何とかして殺さなければ。
そんなことを考えながら足早に河川敷へと向かった。
「……?」
目に入ってきた光景に困惑してしまう。
冬真が小春たちと一緒にいるのだ。
傀儡や絶対服従で従わせている様子も、小春たちが冬真を人質に取っているような様子もない。
「どういうことや? 何でそいつらとおんの?」
眉を寄せ、怪訝な顔で尋ねる。
冬真の性分は知っている。彼が小春たちに味方する謂れはない。逆も然りだ。
つまり、アリスが嵌められた、ということはありえないはずなのだが。
「冬真くん、アリスちゃんを拘束して」
「!?」
小春の言葉に応じた冬真が、アリスに向かって蔦を伸ばした。
しゅるりと巻き付き、捕縛される。
何がどうなっているのだ。
何故、そうも友好的なのだ。
何故、冬真はそうも小春たちに素直なのだ。
わけが分からない。
混乱が拭えないながらもアリスは巨大化し、蔦をちぎって裂いた。
易々と拘束を抜け出す。
「ね、ねぇ。この二人会わせてよかったのかな……」
はたと思い至った瑠奈は不安そうに小声で呟く。アリスと冬真だ。
記憶の懸念が再燃する。
アリスがここへ着く前に、冬真のことは匿った方がよかったかもしれない。いや、確かにそうすべきだった。
「今さらどうしようもねぇよ……」
油断なく二人に目をやりながら、蓮も声を抑えて返した。
アリスは冬真を見据える。
「なぁ、何があったん? 桐生や佐久間は? その地面の血は……?」
それを受けた冬真の動きが止まる。
そんなこと、何故自分に聞くのだろう。
「おい、聞く耳を持つな! もっかい拘束しろ」
蓮が慌てる。
冬真は再び蔦を巻き付けたが、アリスは、今度は矮小化し回避した。
彼女に蔦による拘束は効かないようだ。
「無駄無駄! どうせ無理やろうから教えたるわ、あたしの魔法のルール」
巨大化も矮小化も、所有権が自分にあるものは本人とサイズが連動する。
例えば衣服や靴が代表的な例だ。
それ以外は本来のサイズのままだった。
つまり彼女を拘束し、尚且つ抜け出すのを防ぐには、アリスの持ち物を使わなければならないということである。
「どうするの……」
紗夜が誰にともなく尋ねた。
見たところ、当然ながら拘束に使えそうなものなどアリスは持っていない。
ひとまず拘束の手を弾き返すことに成功したアリスは、注意深く冬真を眺めた。
小春たちと見比べる。
彼ら彼女らが演技をしているようには見えない。
……はっと閃いた。
冬真にあれこれと尋ねるのを阻んでくること、冬真の態度が百八十度変わったこと────。
地面に残る赤黒い血溜まりを見た。
(まさか、佐久間……?)
冬真は記憶操作をされているのではないだろうか。
そう考えれば、この不自然な現状にも合点がいく。
大雅と律と相対した冬真は、試合に勝って勝負に負けたわけだ。
────しかし、律の記憶操作は不完全だと聞いた。
(……あたしが思い出させたるわ)
アリスは目を細め、冬真を見据える。