ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
紅の家へ上がった面々は、ダイニングのテーブルを囲んだり、リビングのソファーに座ったり、絨毯の上に座ったりと、各々落ち着ける位置を見つけて腰を下ろした。
「改めて言うけど……最終的に私は運営側を倒したいと思ってる」
小春はそれぞれを見やり、凜然と宣言した。
「正直、それでどうなるのかは分からない。戦うことで、本当にこんなゲームを終わらせられるのか。それとも、あっさり殺されて終わりか……」
謹厳な面持ちで、慎重に言葉を紡いでいく。
「今までのことを思うと、実力的に敵わないかもしれない。命の保証はない。だから、どうするかは皆に任せる」
自分からはどんな選択も強制出来ない。
現実的な見通しの話をした上で、意をともにするかどうかは各自に任せるしかない。
例えばそれで、自分一人しか残らなくても。
「俺はやる」
真っ先に言ったのは蓮だった。
「死ぬのが怖くて逃げたって、どうせ十二月四日には強制的に終わりが来る。やるしかねぇよ。それしか守る方法がねぇんだから」
小春を。そして、仲間たちを。
二人の言葉を受け、奏汰も頷いた。
「俺もやるよ。……最初から一緒に戦ってきた。一人じゃとっくに死んでたと思う。皆のお陰で繋いだ命だから、最後まで一緒に戦う」
仲間たちには本当に助けられた。支えられた。守られた。
それなのにこの佳境で知らん振りなど出来るはずもない。
「あたしも、あたしの命は皆のために使いたい。それでも罪は消えないけど……せめて向こうで和泉くんや慧くん、琴音ちゃんに顔向け出来るように」
瑠奈が顧みるように言った。
それだけが唯一の贖罪に思えた。
「私も借りがある……。このゲームのせいで死んだうららの仇も討たなきゃ」
紗夜は右胸に手を当てつつ告げる。
「ちょっと怖いけど、私も……お役に立てるなら一緒に戦います。怪我なら私に任せてください」
日菜まで同調してくれるとは少しばかり意外だった。
彼女は献身的な性格ではあるが、ゲームに対しては割と傍観傾向にあったためだ。
自分に出来ることをするだけ────日菜の原動力はそこにあった。
「……冬真は?」
硬い声色で、蓮が尋ねる。
記憶を書き換えられた彼は、どういう選択をするのだろう。
「僕、は────」
同調しようとしたが、何かが引っかかって即答出来なかった。
何だろう。何か消化出来ない、言葉に出来ない違和感のようなものが胸にわだかまっている。
アリスの言葉も引っかかっていた。
『敵の術中にまんまと嵌っとってええんか? 唯一の生存者になるんとちゃうかったんか?』
あれは口から出任せだったのだろうか。
だとしたら、あのとき疼いた頭痛は偶然……?
何だかしっくり来ない。
皆とは仲間のはずなのに、まるで情が薄い。
皆とは違い、命はやはり自分のために使いたい。
仲間であっても他人のために死ぬなどごめんだ。そう思うのは、自分がおかしいのだろうか。
そういった意識が相容れないことも相俟り、何となく自分はこの場に馴染んでいない気がする。
考え過ぎだろうか。
「おい、冬真? 大丈夫か」
蓮に案じられ、冬真は咄嗟に微笑み返した。
「……うん、僕もやるよ。協力して運営側を倒そう」
その返答に、思わずほっと息をつく。
アリスと顔を合わせ、彼女の言葉で冬真が頭痛を起こした時は肝を冷やした。
だが、どうやら律の魔法はまだ効いている模様だ。
もしも記憶が戻ったのなら、運営側の肩を持つはずである。
彼に直接手出し出来ない小春たちの前では、彼が演技をして騙す謂れなどないのだから。
何にせよ、そういう意味でも時間がない。
記憶が戻るより早く事を成してしまわなければ。
────全員の意思の統一を確認したところで、運営側を倒す具体的な施策を打ち出すための“作戦会議”を始めた。