ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「やっほー、さっき振りだね!」

 ドアを開けると、そこにいたのは瑠奈だった。

 明るい笑顔で手を振っている。

「小春ちゃんたち、この後何するか決まってる? もしよかったら、奏汰くんも誘ってどっか遊びに行かない?」

 思いもよらぬ誘いだった。

 蓮は眉を寄せる。

「そんな場合かよ」

「でも、何もしてないと落ち着かないでしょ? それに、明日にはどうなるか分かんない。最後なんだよ」

 彼女の言い分は、確かにその通りだった。

 ……本当に最後なのだ、もう。

 その実感が深く心に伸し掛る。

「紗夜ちゃんには断られちゃった。たくさん食べてたくさん眠って備えなきゃ、遊んだら疲れる、って。日菜ちゃんは、最後かもしれないからこそいつも通りでいたい、って言うし。冬真くんはあれだし……」

 だから四人で何処かへ行こう、と誘いに来たのだ。

 ────色々なことが立て続けに起こった。多くの死に触れた。

 明日はさらに過酷なものとなるだろう。

 だからこそ思い詰めないよう、瑠奈なりに気を遣ってくれているのだ。

「そうだね。遊びに行こう」

 小春は小さく笑って頷いた。



 かくして奏汰も合流し、四人は大通りを歩いていく。

「何処行く?」

「俺、腹減ったー」

「じゃあとりあえず腹ごしらえからね。近いしバーガーショップでいっか」

「早くしなきゃ時間なくなっちゃう!」

 他愛もない話をしながら昼食をとった四人は、瑠奈の希望で遊園地へと赴いた。

 アトラクションを楽しんだり、お土産を買ったり、スイーツを食べたり、そう純粋に楽しんでいるうち、気付けば日が傾き始めていた。

 このゲームに巻き込まれてから、これほど気を抜くことが出来たのは初めてだった。



「あー、楽しかった」

「いい気分転換になったよね」

 帰路につき、駅へと向かう。

 帰りの切符を買おうとしたとき、不意に蓮が足を止める。

 訝しんで振り返ったとき、彼は呟いた。

「……海、行かね?」



 ────電車の窓から水平線が見え始めると、瑠奈が「わぁ!」とはしゃぐ。

 駅から出た四人は海辺へ歩いていった。

 沈んでいく夕日が、辺り一面をあたたかいオレンジ色に染め上げていく。

 柔らかい光が射し込み、水面が煌めいている。

 細かな砂粒を靴裏で弾きながら浜辺を歩き出す。

 ふと、奏汰は瑠奈の肩を叩く。
 二人の方を目で示しつつ何も言わずに頷くと、瑠奈も察したようににんまりと笑った。

「ねぇ、二人とも。あたしたち、ちょっと売店の方行ってくるね」

「えっ? あ、うん。分かった」



 瑠奈たちが去り、二人になると、またくすぐったいような時間が訪れた。

「…………」

 快いのに居心地が悪いような感覚────お互いを意識してしまっているのだ。

 それでも、と、蓮は小春の手を取り握った。

 長く一緒にいるが、手を繋いだのは当然初めてのことだ。

 ……それでも、もっと意識して欲しいから。

 小春は驚いたものの、振りほどきはしなかった。

 思わず蓮は手に力を込める。

 不安になるのだ。

 小春が一度消えて以来、こうして捕まえていないと、またいなくなってしまいそうで。

 あるいは触れて確かめないと、幻かもしれないから。

「大丈夫だよ、私は何処にも行かない」

 顔に出やすい蓮の考えていることは小春にも分かった。
 微笑んでそう言ってからふと俯く。

「私がこんなこと言ったら怒るかな……」

「?」

 顔を上げ、首を傾げる蓮を見据えた。

「蓮も何処にも行かないで。抜け落ちる私の記憶は、蓮に教えて欲しい。……これからも」

 明日が過ぎた後、記憶がどうなるのかは知らない。

 それでも、もしも忘れるようなことがあるのなら、それは蓮に埋めて欲しかった。

 わずかに瞠目した蓮は、思わず小春を抱き締めた。

「当たり前だろ。お前放ってどっか行くかよ。覚えてねぇなら何度でも言ってやるよ。俺はお前を独りにしねぇ、ずっとそばにいる」

 不意に泣きそうになる。

 終末の予感に、随分と感傷的になっているのかもしれない。

 あるいは蓮の不器用な優しさに安心しているのかもしれない。

「……ありがとう」
< 305 / 338 >

この作品をシェア

pagetop