ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 冬真は傀儡を伴い、旧校舎を後にする。

 空いた手をポケットに入れ歩き出した。

 ……まさか、こんなところで瀬名琴音が役に立つとは思わなかった。
 彼女のお陰ですべてを思い出せた。

(いや、祈祷師のお陰かな)

 冬真は記憶を辿った。

『はい、どーぞ。戦利品だよ』

 偶然の結果論に過ぎないが、またしても彼に助けられた。

 もしもここまで読んだ上での行動だったのなら、さすがに畏怖の念すら覚える。

 冬真はまたしても笑った。

 必死になる小春たちの様子を思い出したのだ。

「運営側を倒す、ね。……ほざいてろ、馬鹿ども。やれるものならやってみろ。勝手に死んどけ」

 吐き捨てるように容赦なく毒づいた。

(最後に生き残るのは、この僕だけでいい────)



*



 夜の二十三時を回った。

 小春は布団に入ったものの、なかなか寝付けずにいた。

「…………」

 本当に色々なことがあった。

 最初は────ゲームに翻弄され、ひたすら怯えていた。

 まず真っ先に蓮が手を差し伸べてくれなければ、不安に押し潰され、とっくに生きることを諦めていたかもしれない。

 敵が味方となり、味方が敵となった。
 友が敵になったり仲間になったりした。

 何が正しいかなんて今でも分からない。それぞれに信念があるのだ。

 無謀とも言えるような目的と理想を前に、犠牲となった仲間たちも少なくなかった。

 生き残るほどに生まれる責任。多くの死の上に成り立つ現在。

 彼ら彼女らの思いを背負い、今はただ、突き進むしかない。

 小春はそっと一旦起き上がり、部屋を出た。



 水を飲みに行こうとしたのだが、リビングに蓮の姿を見つけた。

 テレビもつけず、しんと静まり返った空間で、ソファーに座っていた。

 小春に気が付くと顔を上げる。

「どうした? 寝れねぇの?」

「うん、ちょっと……」

 小春は頷きつつ、首を傾げた。

「蓮こそどうしたの?」

 彼は口端を結び、記憶を辿る────。



『奏汰』

 外廊下を歩いていく彼を呼び止めた。

 奏汰は足を止め、不思議そうな振り返る。

『……俺、今日もっかいガチャ回す』

 思わぬ蓮の言葉に奏汰は瞠目した。

『ちょっと待って。本気?』

『ああ。けど、別に自棄(やけ)になったわけじゃねぇ』

 奏汰はただ彼を見返した。

 その真剣さを測るように双眸を捉える。

『火炎だけじゃ()と同じだろ。水で封じられて終わり』

 蓮の言いたいことは分かった。

 祈祷師に襲われたとき、確かに為す術がなかったのだ。

 ……正確には、呪術師と相見えたときもそうだったのだが。

 運営側は全員の手の内を把握している。
 メタられる(、、、、、)のは当然だろう。

 とはいえ、ガチャは魔物だ。時に人を惑わせ、破滅へと導く。

 そこから力を得られるのか、あるいは果てしない代償を負わされるのか、すべては運次第である。

『……小春ちゃんには言わないの?』

 案ずるように問うと、蓮は頷く。

 小春に言うつもりはなかった。

『……ずっと“何で”と思ってたけど、小春が黙って回した理由が分かった気がする』

 祈祷師に殺される未来を見た彼女が、その後一人で決断を下した理由が。

『大切な人には、大切だからこそ言えないもんなのかも』

 心配も迷惑もかけたくなくて、自分一人で何とかしなければ、と背負い込んでしまう。

 打ち明けたからと言って、奏汰が大切でないという意味ではなく。

『…………』

 蓮の覚悟は相当なものだった。危険もとっくに承知の上だ。

 今さら止めるのも野暮だろう。

 第一、既に決めたことだ。その固い意思は第三者に覆せるものではなかった。

『もし俺に何かあったら、小春を頼む』

 その強い眼差しを正面から受け止める。

 一拍置き、奏汰は頷いた。

『……分かった』



 蓮は曖昧に笑う。

「何でもねぇよ。明日のこと考えてた。もしかしたらもう、人生最後の夜かもしんねぇから」

「……蓮」

 小春が咎めるように呼ぶ。

「やめてよ、そんなこと言わないで」

「冗談だって」

 軽く流そうとしたが、思いのほか真に迫る雰囲気になってしまった。

 少なからず本心が含まれていたからかもしれない。

 今日が人生最後の夜である可能性は否定し切れない。

 それでも────。
< 307 / 338 >

この作品をシェア

pagetop