ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

最終話 11月28日


 午前七時半。

 目覚めた小春は困惑した。
 隣で蓮が眠っていたからだ。

 意外と長い睫毛や通った鼻筋が、柔らかな影を落としている。
 思わず見つめてしまい、どぎまぎした。

 いったいここは何処だろう。

 何がどうなって一緒に寝るということになったのだろう。

 ゆっくりと起き上がったとき、蓮が「ん……」と小さくこぼした。

 うっすらと目を開ける。その焦点が小春に定まる。

 朝の淡い光に包まれ、まだ何処か夢心地だった。

「……はよ」

「あ……おはよう。えっと……」

 戸惑いつつ答える。
 蓮は起き上がり、ふっと笑って見せる。

 彼女の記憶の穴を埋めるように、忘れていることをすべて説明した。昨晩先走ってしまった告白のこと以外は。

 小春は告げられる色々な事実を、驚いたり悲しんだり笑ったりしながら受け止めた。

 一通りの説明を終えると、蓮は言う。

「俺さ、昨日またガチャ回したんだ」

「えっ!?」

「会得したのは風魔法で、代償は寿命だったけど……大丈夫だ」

 年数については明言しなかった。

 今さらどうにもならないし、余計な心配を煽りたくない。

 同じことをメッセージアプリのグループでも報告しておく。

【火炎と相性がいい。運がいいね】

 紗夜は淡々とそう評した。

 それはそうだ。代償はともかく、引いた魔法自体は当たりの部類に入るだろう。

 その後、程なくして七人全員と連絡がついた。

 決戦は今日だ。

 泣いても笑っても、今日ですべてが終わる────。



 身支度をして朝食をとると、九時を回った。

 昨日同様、運営側から“中間発表”と題したメッセージが来る。

【12月4日まで、残り6日となりました。
現在の生存者を発表するよ〜!

・朝比奈 莉子
・雨音 紗夜
・如月 冬真
・胡桃沢 瑠奈
・五条 雪乃
・斎田 雄星
・佐伯 奏汰
・三葉 日菜
・水無瀬 小春
・向井 蓮

以上、10名。
各自殺し合い、頑張って生き残ってください】

 紅とアリスの名が消えていたが、他は変化なしだ。

【みんな、もう大丈夫?】

 小春はグループにそう送り、各自の状況を確認した。

【大丈夫!】

【いつでもいいよ】

 最後を迎える覚悟は、各々既に出来ているようだ。

 彼らの返信を受け、これから三十分後、河川敷で合流予定とする。

「まだ三十分あるけど、何すんだ?」

「伝えに行かないと。雪乃ちゃんたちにも」

 魔術師である三人のことは、どのみち今日巻き込んでしまうことになる。

 小春と蓮は名花高校へと赴いた。



 雪乃は今日も莉子たちと一緒だった。当然、和気あいあいとしたものではないが。

 埃にまみれた雪乃と、そんな彼女を見下ろす莉子と雄星。

 咎めるような眼差しで彼女たちを見据える。

「あれー? 小春じゃん。今までどこいたのー?」

 そうか、と思い至る。

 彼女も魔術師だ。だから小春失踪の異変にも気付けていたわけだ。

「……やめなよ、もう」

 小春は毅然と言う。

 雪乃は若干目を見張った。

 しかし莉子たちは怯みも悪びれもせず、へらっと笑うだけだった。

「何が? あたしたち遊んでるだけじゃん」

「つか、見た? こいつも魔術師だったんだって。マジびっくり」

 雄星が雪乃を指して言う。

 その雪乃からほとんど毎日殺されているとは、夢にも思わないことだろう。

「てか何しに来たの? わざわざ止めに来たわけ?」

「……話があるの」

 不興を顕にする莉子にも怯まない小春の姿は、雪乃からすれば信じ難いものだった。

 否、雪乃以外からしてもそうだ。

 女子の中の女王的存在である彼女は、そういう意味で恐れられている。

 だからこそ、雪乃いじめをほとんどが傍観しているのだ。

「何?」

「私たちは今日、運営側と戦う。そのことをあらかじめ伝えに来たの」

 さすがに驚いたようだった。

 莉子と雄星の顔から笑みが消え、二人して顔を見合わせる。

「……へー、ガチ? 何で?」

「ゲームを終わらせるため」

「放っといても十二月四日には終わんだろ」

「それじゃ手遅れなんだよ、馬鹿」

 見兼ねた蓮は毒づいた。

 どうやら二人は事の重大さが分かっていないようだ。

「……ま、何でもいいや。好きにしなよ」

「俺たちは手伝わねぇからな。面倒くせぇ」

「いらねぇよ」

「どうなるか分かんないから伝えに来ただけなの。二人も好きにして」

 最初から協力など求めてはいない。むしろ願い下げである。

 莉子は「言われなくてもー」と暢気な調子で返し、背を向けた。
 雄星とともに去っていく。



「今日……」

 目を伏せたまま雪乃がぽつりと呟いた。

 とうとう今日が、決戦の日なのだ。

 小春は慌てて彼女に向き直った。

「あ、ごめんね。勝手なことしちゃって」

 莉子を制したことだ。

 あれでさらなる反感を買えば、害を被るのは小春ではなく雪乃だろう。

「とんでもない。あんなふうに立ち向かってくれる人、水無瀬さんが初めてです」

 雪乃は眉を下げ、笑った。

 何処か晴れやかで清々しい表情だった。

 蓮は不満気に眉を寄せる。

「……お前さぁ、本当に二面性凄いよな。つか、小春のこと好き過ぎだろ」

「は? 向井に言われたくねぇし」

「おい!」

 思わぬ反撃を食らい、蓮はたじろいだ。

 告白はすべてが終わってから、と決めているのに、余計なことを言われた。

 幸いにも小春は気付かず「二面性?」と首を傾げている。そっちではない。
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