ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
廊下の先から声がした。
「あんたたち、相当なお馬鹿さんみたいだね。自らのこのこ虎の穴に飛び込んでくるなんて……命知らずにも程がある」
暗闇から姿を現したのは二人の女だった。霊媒師と呪術師である。
一同に鋭い緊張が走った。
身構えながら、奏汰、紗夜、瑠奈が前衛に出る。昨日の時点で決めていた通りだ。
「蓮たちは行って」
油断なく二人を見据えつつ、奏汰が言う。
昨日二通りの作戦を練ったが、現段階では陰陽師の動向が窺えない。
天界という場所からして、ひとまず“前者”の想定でいくしかないだろう。
ここで必要以上に犠牲を出すわけにはいかない。
小春たちが不安気に彼らを見やれば、力強い頷きが返ってくる。
「日菜は小春たちについて行って……」
「あたしたちはヘーキ! 一瞬で片つけてやる」
小春は踵を返す。
「分かった。……また後で」
半分は希望を込め、そう言って走り出した。
「気を付けろよ」
「どうかご無事で……!」
蓮と日菜も後に続く。
冬真は人知れず白けた表情を浮かべながら、傀儡を伴って走った。
何処へ向かうべきかなど分からない。
ただ、遠ざかることだけを考え駆け抜けた。
「はい、ストップー」
最早馴染み深いとさえ感じる祈祷師の声とともに、踏み出した足の先で、火炎で線引きされた。
蓮は「危ね」と咄嗟に飛び退き、小春を庇うように立つ。
冬真と日菜も足を止めた。
祈祷師は顎に手を当て、それぞれを見比べる。
「ふーん、変な組み合わせだね。特にトーマっち、キミどういう風の吹き回しなの? ……なぁーんつって。見てたからぜんぶ知ってるケドー」
けらけらと笑う。彼は本当に掴みどころがない。
ひやりとした。
祈祷師がそういう余計なことを口走るとは。
「……だったら、あのことも知ってるよね」
「アノコト? 何のコト?」
微笑む冬真にとぼける祈祷師。
やけに親しげな二人の様子に小春たちは戸惑った。
律が自分たちにとって不都合となるような冬真の記憶を消したのなら、祈祷師とのことも消えたか書き換わっているはずなのに。
冬真の様子もおかしい。……“あのこと”?
「僕が記憶を取り戻したこと」
冬真ははっきりと言ってのけた。
「……!?」
小春たちは動揺する。
目を見張り、息をのんだ。
「そんな……」
いったい、いつからだろう。ずっと演技をしていたとでも言うのだろうか。
祈祷師はにやりと笑みを湛える。
「モチロン知ってるよー。記憶操作されておろおろしてたキミは傑作だったな。あんなの普段のトーマっちからは想像もつかないってー」
「はぁ……本当に情けない姿だったよね。しかも、こいつら全員そんな僕に付け込んでさ。僕よりよっぽどヴィランだと思わない?」
「くくく、キミに自覚があったとは」
二人のやり取りに圧倒されてしまう。
ひたひたと、悪い予感が忍び寄ってきている。
「どういうことですか……。どうなってるんですか!?」
日菜は狼狽える。
小春も信じ難い気持ちになり平静さを欠いていた。
「……最悪だな」
驚いたり怒ったりする気力を失っていた蓮は、それだけを低く呟く。
この状況が。そして、冬真の魂胆が。
────冬真は以前、琴音を殺すために祈祷師と手を組んでいた。
そして彼は元より、小春たちとは意向が対立している立場である。
今回また祈祷師と手を組むことで、小春たちを皆殺しにし、自分一人だけ生き残る気なのだ。
「ねぇ、もう一度僕と協力しよう。あのとき言ってたよね。また何かあったら、って」
「あー、うん。言ったね」
「じゃあ手を組もう。僕もこいつらの殲滅に全力で力を貸す。全員殺して、唯一の生存者になる。僕だったら、君たちを退屈させない」
小春たちはただただ惑った。言葉が出なかった。
どうしたらいいのだろう。
冬真が運営側についてしまえば、小春の信念も貫けないかもしれない。
冬真だって立場は同じで、守るべき対象なのに。敵対している場合ではないのに。
しかし彼は話の通じる相手ではない。
記憶が戻ってしまったのならば、尚さら────。
祈祷師は興がるように口角を持ち上げる。