ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「いいねー、確かにキミは見てて飽きないよ。ボクは大好き。その提案も超面白そう」

「……じゃあ────」

 ほくそ笑んだ冬真が一歩踏み出した瞬間、素早く祈祷師が水弾を連発で放った。

 その銃口(ゆびさき)は、冬真に向いている。

「……っ」

 まともに数発食らった彼は血を吐き、崩れるように膝を折った。右胸や脇腹、みぞおち辺りが赤黒く染まる。

 突然の出来事に、日菜は悲鳴を上げた。

 蓮は瞠目し、小春も呼吸を忘れた。

「と、冬真くん……」

 どういうことなのだろう。

 驚いたのは、彼が急に撃たれたことだけではない。

 そのまま結託する流れではなかったのか。

 祈祷師は冬真の申し出を全面的に受け入れたように見えたのに────。

「お、まえ……」

 どくどくと血のあふれる傷を押さえ、彼は恨めしそうに祈祷師を睨む。

 当の祈祷師は相変わらずへらへらと軽薄な笑いを浮かべていた。

「いや、申し訳ないけどボクに決定権ないんだよね。キミの言ってることはすごーく魅力的。でも、ここへ乗り込んできた魔術師もどき(、、、)は一掃しろ、とのことだからさ、悪く思わないでよ」

 その言葉に、小春は眉を寄せる。

「もどき……?」

「おっと」

 どういう意味だろう。

 口を滑らせたのか、祈祷師は口を噤んでしまった。それについて説明する気はないらしい。

 冬真の荒い呼吸に血が絡む。銃創からぼたぼたと血が垂れる。

 日菜は治癒しようと手を伸ばした。

 彼がどんな人間であれ関係ない。何事も命あってこそだ。

「近寄るな……」

 しかし、冬真はにべもなく拒絶した。

 この状況における、なけなしのプライドだった。

「強がっちゃって。ホントは痛くて痛くてたまんないくせにー」

「どうして……僕を裏切る?」

 祈祷師の顔から笑みが消える。

「トーマっちさぁ、勘違いしないでくれる? ボク、別にキミの味方じゃないから」

「何を、今さらそんな嘘……」

「嘘? あはは、ぜーんぶ事実だよーん。最初に手を組んだのもコトネン殺害のため。そこは一致してたけど、動機が違った。ボクはあくまで制裁に来てたんだよ」

 別に冬真に手を貸したわけではないのだ。

 冬真は、ぎり、と奥歯を噛み締める。

「そんで、あとは? ……あぁ、キミに星ヶ丘の魔術師の人数教えたんだっけ。あれはまぁ、ゲームを盛り上げるための粋な計らいってやつよ。だってフツーに考えてアウトでしょ、運営とプレイヤーが結託なんて」

 とんだ暴論だ。無茶苦茶な言い分である。

 冬真もまた、彼の気まぐれに振り回されたに過ぎないのだ。

 祈祷師の唇がにんまりと弧を描く。

「これで分かったんじゃない? キミも所詮、駒の一つに過ぎないってこと。……それじゃ、苦しそうだしそろそろ殺してあげようかな────」

 祈祷師が再び銃のように手を構えると、小春は咄嗟に地面を蹴った。

 冬真の前に立ち、両手を広げる。

「小春!」

 蓮は慌てた。

 驚いたのは冬真も同じだった。

「なんの、つもり……? 僕は君たちの敵で、仇でしょ……」

「そんなこと関係ない。皆守るって誓ったの」

 毅然として告げる。

 怒りや憎しみに翻弄されては、目的を見失う。

「おーおー、すんばらしい仲間意識。キミはミナセコハルだね? 前は逃げられて殺せなかった(、、、、、、、、、、、、、)けど、やっと手を下せそう」

 祈祷師は水弾から光弾に切り替えた。

「あのときはイタルくんともどもやってくれたよねー。キミに貫かれた肩痛かったんだよー。さすがにやり返していいよね」

 小春は怯むことなく、同じように手を構える。

 互いにいつでも光弾を放てる状態で対峙する。

 不意に背後で傀儡の遺体が倒れた。冬真の力が弱まっている。魔法を発動していられるだけの体力がもう残っていないのだ。

「……私たちは身を守っただけ」

 小春はそう返すと、油断なく祈祷師に銃口(ゆびさき)を向けたまま、冬真に触れた。

 これであれば、重傷を負った彼でも逃げられる。

「蓮、二人を連れて逃げて」

「待てよ、小春は!?」

「心配しないで。すぐ追いかける」

 蓮は正直なところ、彼女と離れたくなかった。

 一人にするなど心配でたまらない。こんな場所では尚のことだ。

 しかし、ここで駄々をこねていても埒が明かない。それほど無駄なことはない。

「……無茶すんなよ? すぐ戻るから」

 二人を安全な場所へ隠し、すぐに戻ってくる他にない。

 走り出した蓮に日菜も後に続いた。

 しかし、冬真は項垂れたまま動こうとしなかった。

 動けないのではない。小春の魔法により、空中を移動出来るのだから。

 足を止めた蓮は振り返る。

「冬真!」

 急かすように叫んだ。

 彼は俯いていた顔を上げ、祈祷師を睨みつける。

 もう言葉はなかった。傀儡が解除されているのだ。

 意図は聞けないが、やろうとしていることは何となく分かる。

「おい冬真、やめとけ。死んじまうぞ」

 蓮は制したが冬真は首を左右に振った。

 手を翳し、祈祷師に蔦を絡め拘束する。

 既に息が苦しい。
 負傷のせいか、いつもより反動が重く大きい。頭が割れそうだった。

 撃たれた傷が疼く。あふれる血が止まらない。

 ひどい寒気に襲われ、指先が震えたが、ほとんど意地と気力で動いていた。

「えぇ? ちょっとー、動けないじゃん。殺されるー」

 祈祷師が喚く。

 言葉とは裏腹に、その口調にはまるで緊迫感がない。

 冬真は小春の浮遊魔法を利用し、一気に祈祷師と距離を詰めた。

 尖った剣のような樹枝をその左胸に突き刺す。
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