ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
「でも……魔法は全員使えるんでしょ? 魔術師だけ、魔術師って呼ばれてるの?」
何となく口をついて疑問がこぼれた。何だか“魔術師”だけ異色に感じる。
それも中身の伴わない呼称であるだけだ、と言われれば、それまでなのだが。
段差の途中で足を止めた陰陽師は、すっと目を細める。
「我々の持つ“異能”を、人間たちは“魔法”と呼ぶな。だが、単に魔法使いということでなく、我々の中で魔術師は異質な存在なのだ」
小春の抱いた直感的な感想は、間違いではなかったようだ。
「異質……」
「如何にも。魔術師は────人間の中から選ばれる」
小春の睫毛が揺れる。
驚くものの、半ば予想通りだ。
「ということは……このウィザードゲームは、そのための選別ってこと?」
陰陽師は首肯する。
「ゲームにおける唯一の生存者が、正式に魔術師に選ばれ、天界へ招かれる」
祈祷師の言葉が理解出来た。
“魔術師もどき”とは、そういうことだ。
────魔術師候補。
「魔術師が欠けたら、毎回こんなゲームをしてるの? 大勢を殺して……」
「いや、そういうわけではない。我々と同類の者で適任者がいれば、普通はその者を選ぶ。その場合、魔術師ではなく“妖術師”と呼ぶがな」
つまり、彼らにとって魔術師と妖術師は同じ役割を持つのだ。
人間上がりなら魔術師、妖なら妖術師と、呼称が変わるだけである。
空間の維持には陰陽師、祈祷師、呪術師、霊媒師、そして魔術師か妖術師のいずれかが必要となる。
魔術師と妖術師はどちらでも構わず、それぞれ五人が揃えばいい。
「何で私たちが選ばれたの……?」
人間など、どれだけ膨大な範囲がいることだろう。
それなのに何故、自分たちに白羽の矢が立ったのか。
「貴様ら高校生が対象になったのは、ダイスの結果だ。バトルロワイヤル形式にすることで、運やその個人の能力を測りつつ、選別していくことにした」
魔法の扱いなどといった魔術師としての素質や頭脳、体力、気質などが、そういった個人の能力に含まれる。
運営側はこの選別を「ウィザードゲーム」と称し、ゲーム感覚で高みの見物をしていたわけだ。
また、メッセージについても完全にランダムに送信されていた。
受信出来なければ“運が悪かった”として、その時点で候補からも除外される。
受信者はもれなく魔術師候補になるのだ。
「でも、何で人間を巻き込むの……? あなたたちとは関係ないのに」
勝手に選ばれ、勝手に殺し合いを強いられた。
陰陽師は鼻で笑う。
「私とて人間などとは関わりたくない。何もかもが我々に劣る。異能の精度も治癒能力も。老いもするし死にもする。何より……身勝手で利己的。この上なく愚か」
吐き捨てるように言い、陰陽師は人間に対する嫌悪を顕にする。
歴代の魔術師たちはその本性を顕に、欲望のままに行動した。
今、魔術師及び妖術師の席が空いているのもそのせいである。
先の魔術師が失楽園状態になったのだ。
実に愚かな生き物だ。分不相応な力を手に入れた途端、横柄で盲目になるのだから。
「貴様のような人間も軽蔑に値する。その性分も理想も言葉も、反吐が出るほどの偽善者だ」
陰陽師の鋭い目に射すくめられる。
「結局、己が生き残った。他者を散々犠牲にした結果な。上辺だけ繕い、よくもまあ皆を出し抜いたものだ。打算的な策略家だな。感心すら覚える」
淡々と刃のような言葉を浴びせられた。
「実に諦めが悪い」
「……っ」
小春は唇を噛み締め、わななく。
────間違ったことをしたくない、と思った。最初から。
突如として始まった非日常。殺し合い。
それでも、選ばれたプレイヤーたちはあくまで被害者という立場だ。
妖たちの気まぐれに巻き込まれ、踊らされているだけである。
命を奪う資格も、奪われる謂れもない。
だから、殺し合いなんてしたくなかった。
殺さないと決めた。
特別な力を得たのなら、他の誰かを守るために使うべきだと思った。
そうやって掲げた理想や信念は、正義感から来るものだったかもしれない。
(でも、それだけじゃない……)
それだけじゃないということに、本当は気が付いていた。
だからこうして責められるたび、深く言葉が突き刺さった。
蓮も紅も他の仲間たちも認め称えてくれたけれど、買い被りすぎだ。
本当はただ、怖かっただけなのだ。怯えていただけ。
一度でも手を汚してしまったら、もう後戻り出来なくなる気がして。
日常に戻れなくなる気がして。
皆を失う気がして。