ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
間違ったことはしたくなかった。
実際、間違ったことはしていない。
奇妙な話だが、それでも必死に正当化していた。
そうしていなければ、自分を守れなかった。
きっと流され“殺さなければ殺されるから”と逆方向の正当化をしていただろう。
そうしないでいられたのは、自分一人の力ではない。
皆が、仲間がいたから。
彼ら彼女らと意をともに出来たから。
だから、誰よりも重んじていられた。自分自身に課した戒めを。
「…………」
小春は涙を溜め、顔を上げる。
強気な眼差しで陰陽師を見据える。
「身勝手なのはそっちでしょ……! このゲーム自体、あなたたちの身勝手で成り立ってる」
小春が反論したことに、陰陽師はわずかに驚いたようだった。
「利己的なのもお互い様。自分たちのためだけに私たちを巻き込んで、何人も殺して、殺させて。従わなかったら制裁……? あなたたちのルールなんて知らない。押し付けないでよ!」
ぎゅ、と拳を握り締める。
息を吸う。
「“諦めが悪い”? 当たり前でしょ。私はすべてを背負ってここにいるの! 皆に託されたすべての希望を信じて、叶えるために来たの! 簡単に諦めてたまるか……っ!」
魔法なんて使っていないのに、心臓がうるさかった。
息が切れた。手が震えた。
(……怒ってるんだ、私)
その事実に少し驚いた。
恐怖よりも怒りが勝っている。
本当に腹立たしいのに、何処か冷静な自分がいた。
言い返せたのはきっと、皆のお陰だ。蓮のお陰だ。
間違ったことはしていない。
ならば、気後れしなくていい。遠慮はいらない。自分を責める必要もない。
「…………」
陰陽師はただ黙っていた。
圧倒され押し黙っているわけではなく、意図的に口を噤んでいるのだろう。
「……言うじゃん、ちょっと意外」
不意に何処からか声がした。少女の声だ。
「何だかんだで芯が強くなったんじゃない? ウィザードゲーム様々だね」
「誰……?」
小春は周囲を見回した。誰もいない。
すぅ、と空間が歪む。
突如としてそこから少女が現れる────霊媒師だった。
「え……!?」
小春は瞠目し動揺を顕にする。
何故生きているのだろう。
奏汰は確かに“倒した”と言っていたはずだ。しかし、見たところ霊媒師には傷一つもない。
「悪いね、陰陽師。聞き耳立てるつもりじゃなかったんだが」
「じゃーん、ボクも再登場。ザンネンだったね、命からがらの勝利だったのに。実は生きてました〜」
呪術師と祈祷師も現れる。
小春は呼吸を忘れ、ひたすらに戸惑った。
(何で……。何で?)
心臓が早鐘を打つ。
まったくもって理解が出来ない。
何故、全員無事なのだろう。
「……最初から潜んでいただろう」
陰陽師は三人を見やり、呆れたようにため息をついた。
小春が目覚めた時点で、全員ここにいた?
「…………」
瞳が揺れる。
ざらざらとした砂粒が皮膚を撫でているようだ。
絶望感が胸を貫く。
不意に平衡感覚を失い、その場にへたり込んだ。力が抜けてしまった。
「いいねー、そのカオ。信じらんない、ってカンジ? 何が起きてるか教えてあげよっか? ま、簡単な話なんだけどー」
祈祷師は小春の傍らに屈む。
「ボクたちはさ、ゲーム中ほとんどの異能を解放してあげたの。いろーんな魔術師たちのいろーんな魔法を目の当たりにしたでしょ? でもその中で唯一、存在しない異能があった。“これがあったらなぁ”ってときがキミたちにも確かにあったと思うよ、痛いほどね」
もったいつけて微笑む祈祷師。
小春の耳元に顔を寄せる。
「それはね────“死者蘇生”」
息をのみ、小春は顔を上げる。
祈祷師はけたけたと笑った。
「そうだよねー。あったらよかった、って思うよね? あのコもあのコも、生き返らせることが出来たらどんなにいいか」
「死者蘇生、なんて……出来るの?」
「モチロン。陰陽師にかかればワケないんだな、これが」
時間逆行での二分間という縛りもなく、死んだ者を蘇らせることが出来るのだ。
魔術師候補のプレイヤーたちも陰陽師以外の妖も使うことが出来ない唯一の異能である。
「ま、ゲーム中に使えないのは当然だよね。生き残りをかけたバトロワだもん。生き返っちゃったらゲームが崩壊する」