ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
小春は咄嗟に、何て便利な魔法なのだろう、と思った。
誰しもが一度は夢見る能力だろう。
「そっか。じゃあ、瑠奈は消えたんじゃなくて瞬間移動してたんだね」
「そうよ。昨日はあえて水無瀬さんにも姿を見せなかったの。驚かせてごめんね」
瑠奈の意味ありげな態度を目にしたことがあった琴音は、前々から彼女を魔術師ではないかと疑っていたようだ。
昨日、小春とのやり取りを耳にし、ともに学校を出るところまで確認した琴音は、密かに二人を尾行していたらしい。
そして、瑠奈の豹変により、疑念が確信へと変わった。
瞬間移動で瑠奈の背後に現れ、瑠奈に触れると同時に自身も再び瞬間移動した。
だから小春の目には、瑠奈だけが突然消えてしまったかのように見えたのだ。
「悪いけど、念のためその後も水無瀬さんを尾行させて貰ったわ。瑠奈のことは学校に飛ばしたけど、また戻って来たら危険だったし」
「瀬名さんが謝ることなんてないよ。本当にありがとう」
「ああ、マジで助かった。……くそ、俺も油断してた」
くしゃりと髪をかき混ぜる蓮。小春は慌てた。
「悪いのは私だよ。蓮に頼り切りだし、そのくせ勝手なことして……心配かけてごめん」
「お前も謝るなって。そうしろっつったのは俺なんだから」
蓮はそう言うと琴音に向き直る。
「しかし強ぇ魔法だな。敵に出くわしても、触れるだけで勝ちじゃねぇか。それが無理なら、自分が瞬間移動すれば撒けるし」
「そうね、怖いものなしよ。……って、言いたいところだけど、そう甘くないわ」
琴音は答えつつ、サンドイッチの包装を破った。
「魔法を使うと反動があるのは知ってる?」
「そうなのか? そんなになるほど使ったことねぇから分かんねぇ」
「反動自体はすべての魔法にあるの。でも、私の魔法はそれが大きい」
瞬間移動という能力が強力であるため、重大な反動を伴うことによりバランスを調整している、ということなのだろうか。
かなりゲームっぽい話になってきた。
「向井の言うように、敵に出くわしたとき、瞬間移動は確かに強力。でも、敵にはやられずとも、自滅する可能性の方が高いの。反動によってね」
納得するように小春は数度頷いた。
強力ではあるが、万能ではないということだ。
その大きな反動というものが、琴音の弱点なのだろう。