ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
「瀬名の能力は聞いたか?」
「うん、瞬間移動って……」
「ああ。僕の場合、瀬名のような激しい体力消耗や肉体への強い負荷といった大きな反動はない。一般的な反動と同レベルだな」
魔法という非現実的なものに“一般的”という概念が存在するのか、慧は言いながら妙な気持ちになった。
こんな非科学的な代物が存在するなど、以前ならば信じられなかったことだろう。
「なぁ、その反動ってどんなもんなんだ?」
「基本的に短時間のうちに連続で魔法を使用したりすると起こる。主に頭痛、吐血、震え……身体からの警告だな。反動を無視して使い続ければ死に至る」
恐らく人間の身体は本来“魔法”などという異能に対応していないために起こるのだろう、と慧は考えている。
あるいは単にゲームを盛り上げるための要素かもしれない。
「そうなのか。気を付けねぇとやべぇな」
蓮は自身の右手を握ったり開いたりして眺めた。
「向井の能力は何なんだ?」
「あー、俺は火炎だ」
言いながら、先ほどの慧のように一瞬だけ炎を宿して見せる。
「へぇ……、便利だし強力な魔法ね」
琴音は感心したように言う。
仮に戦闘という場面になったとしても、主戦力となるだろう。
「水無瀬は?」
「私は……何もないの」
慧に問われ、小春は俯きがちに答えた。
こうも強力そうな魔法を持つ面子に囲まれると、何だか気後れしてしまう。
「代償が怖いし、殺し合いとかも……したくないし」
言いながら、小春は発言に自信を失ってしまう。
自身の持ち合わせた道徳観や倫理観が誤っているのかもしれない、という気がしてくる。
この状況において小春のしていることは、周囲に甘え切ったわがままでしかないのかもしれない。
「だが、それじゃ危険だろ。能力の使用で魔術師だとバレることはないが、魔術師を見分けられる奴に遭遇したらどうする。対抗手段もない」
「いいんだよ、俺が守るから。それは心配いらねぇ」
慧の指摘にいち早く蓮が反論した。
「そういうことなら私たちも水無瀬さんを守るわ。仲間なんだし」
同調した琴音は慧を見やる。
「いいわよね」
「……ああ」
小春は曖昧な笑顔で「ありがとう」と告げたが、微妙な心情だった。
守ってくれるというのはありがたいことなのだが、その厚意を無遠慮に受け取れない。
皆に負担や迷惑をかけてしまう。荷物になりやしないだろうか。
ただ、勝手な理由でゲームやガチャを拒絶しているだけなのだ。
頼り切るのは心苦しい。