ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 近くで見ると、より不気味さが際立っていた。

 左手首から先までしかないが、人間の手をそのまま固めたかのようなリアルさだ。

 骨付きや筋肉から、この手は恐らく男性もしくは男子のものだろう。

「美術部の作品かな?」

 芸が細かく、手首には腕時計をつけている。

 裏側を覗き込めば、時刻まで読み取れた。デジタル表記で二十時四分。

「美術部っても、石像なんか作れるか?」

 蓮は眉を顰め、手を持ち上げた。

「あんまり触らない方が……」

 小春は窘める。ここに置くことで完成するアートなのかもしれないのだ。

 それ以前にそもそも誰かの作品ならば、下手に触れて壊したら取り返しのつかないことになる。

 蓮は緩慢とした動きで石像を観察してから元に戻した。

 石膏ならばともかく、これは完全に石から出来ている。

 美術部に属したこともなければ、その活動にも詳しくはないため実情は不明だが、美術部は石まで扱うのだろうか。

 だが、何となくこれを“作品”と呼ぶには相応しくないような気が蓮にはしていた。

 手首から先しかないのは、折れたか割れたからなのではないだろうか。

 観察の結果分かったことだが、断面が平らでなく不規則に凹凸しているのだ。

「ん……? これって────」

 何かを閃いた蓮は再び石像を手に取る。

 その腕時計をまじまじと眺めると、さっと青ざめた。

「何? どうしたの?」

 様子の変化に気付いた小春は思わず尋ねた。蓮は慌てて石像を離す。

 地面に落ちたそれはゴトッと重い音を立てたが、芝生であったために割れることはなかった。

「ちょっと、危ないよ。もっと慎重に────」

「触るな!」

 石像を拾い上げようと、屈んで手を伸ばしていた小春は、蓮の怒声にびくりと動きを止めた。

「……どう、したの」

 突然のことに戸惑いながら、瞠目して蓮を見つめた。

 蓮は申し訳なさそうな、気まずそうな表情を浮かべつつ謝る。

「悪ぃ、大声出して。もう行こうぜ」

「え? ちょっと……」

 一方的に小春の手首を掴み、早足で校門まで歩いていく蓮。

 小春はついて行くので精一杯だった。

 手首を掴む力が一歩進むごとに強くなっていく。「待って」と呼びかけても、蓮は一向に足を止めない。

「待ってってば!」
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