ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
後から校舎内に入った小春と蓮が廊下を歩いていると、突き当たりに不穏な三つの人影を見つけた。
A組の教室前だ。小春は歩調を速める。
「小春?」
突然のことに蓮は呆気に取られた。
「何してるの? 莉子」
人影の一つ、朝比奈莉子に声を掛ける小春。
莉子は驚きつつ振り返り、顔を引きつらせた。
一緒にいた莉子の彼氏である斎田雄星も、ばつが悪そうに顔を背ける。
床に這いつくばるように俯いている三つ目の人影は、五条雪乃だった。
和泉同様、彼女と莉子は小春と一年次に同じクラスだった。
「誰かと思えば、小春じゃーん。何って別に何もしてないよ。ねぇ?」
「お、おう」
傷みかけた長い金髪をかき上げ、答えた莉子は雄星に同意を求める。
雄星は頷いたものの、馬鹿正直であるが故に嘘がつけず、気まずそうに目を泳がせていた。
どう見ても、行き着く答えは一つだけだ。
「あのさ────」
「ごめーん、もう時間だから戻るわ。じゃあね」
小春の言葉を遮り、莉子は手を振って教室内へ入って行った。雄星も追従する。
一言で言えば、莉子はギャル、雄星は不良、といった感じだ。
それに対し、雪乃は大人しく控えめな性格。二人が去っても、下を向いたまま顔を上げない。
小さく肩が震えているのが分かる。恐らく、彼女は────。
「大丈夫……?」
小春は雪乃に手を差し出した。
その表情は長い髪に隠れて見えない。
「……っ」
雪乃は小春の手を借りず、一人で立ち上がると、何も言わずにその場から駆けて行った。
行き場をなくした手を引っ込めると、その場で黙していた蓮が訝しげな顔をする。
「もしかしてあいつ、雄星たちにいじめられてんのか?」
断言は出来ないが、小春も十中八九そうだろうと思っていた。
しかし、それに気付いても小春に出来ることなどほとんどないに等しい。
下手に莉子や雄星を刺激すれば、かえって状況が悪化するかもしれない。
それでは雪乃からしても迷惑でしかない。
「とりあえず教室戻ろうぜ。授業始まる」
「うん……」
蓮も同じことを考えているのだろう。深入りせずに切り上げ、そう促す。
小春は雪乃を気にかけつつ、B組の教室へと入った。