ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 それが収まると、蓮たちは頭を擡げた。

 目の前で、慧と戦闘狂の彼が対峙している。

 絶体絶命を打開してくれたのは慧だった。

「望月くん!」

「悪い、遅れたな。もっと早く引き返せば良かった」

 奏汰の家からの道中、誰かがそばに潜んでいる気がしていた。

 気のせいかもしれない、という気持ちと、まさかこんなところで襲われはしないだろう、という甘えで、引き返す判断が遅くなった。

「いや、助かった。……けど今、命中したはずだよな?」

 あまりの衝撃に何が起きたかを目で捉えることは出来なかったが、慧の雷が彼に直撃したのではないのだろうか。

 水で濡れていたために威力増大で命中したはずだ。
 
「何だよ、お前もこの二人の仲間か? なかなかやるじゃん。雷も悪くないなー」

 しかし、彼は暢気にも楽しそうに笑っていた。

 焦げ臭さや煙が確認出来る以上、まともに食らったはずだが、何故か平然としている。

「あ、実は俺の代償って“痛覚”だったんだ。だから、どんな攻撃も効かない」

 得意気に言う彼に、小春は思わず「そんな」とこぼした。

 複数の魔法を操る上に攻撃が効かないなど、どうすれば敵うと言うのだろう。

 一方で、慧は余裕を崩さなかった。さらには呆れ気味だ。

「よし、水も氷も駄目ならさっきの────」

 彼が強気に魔法を繰り出そうとしたとき、不意にふらついた。

「あ、れ……」

 戸惑ったように呟き、地面に倒れる。周囲の水が跳ねた。

 彼はそのまま、眠るように気を失ってしまった。

「え?」

「おい、急に何だよ」

 困惑する小春と蓮だが、慧は冷静にメガネを押し上げる。

「馬鹿だな。痛覚がないからと攻撃が効いてないわけじゃない。ダメージは蓄積する。痛覚がないというのは、己の危険な状態に気付けないというだけだ」

 その落とし穴に、彼は気付いていなかったのだ。

 自身の魔法と痛覚の麻痺に慢心したが故の敗北だろう。



 小春は慧に向き直る。

「助けてくれてありがとう、望月くん」

「ああ、マジでありがとな。もう駄目かと思った」

 礼を受けたものの、慧は厳しい表情を浮かべていた。

 何も言わず、すぐに視線を倒れている彼に向ける。

「悪ぃ、ちょっと奏汰に連絡してみる」

 スマホを取り出し、蓮は少し離れた。

「何かあったのか?」

「あ、えっと……この人、奏汰くんの氷魔法を使ってたの。他にも水魔法と、あともう一つ。よく分かんないけど強かった」

 慧の問いかけに、小春は彼を指しつつ答える。

 慧は目を見張った。

 少なくとも三つの魔法を持つ魔術師。

 口振りから、ガチャで手に入れたのはそのうちの一つだけだろう。

 既に手を血で染めているのだ。

 奏汰とは異なり、自身の意思で。
< 49 / 338 >

この作品をシェア

pagetop