ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
校門を潜ったとき、小春はやっと蓮の腕を振りほどくことが出来た。
困惑したまま蓮の顔を見上げれば、蓮もかなり冷静さを欠いていることが見て取れる。
「……ごめんな、腕痛かったか?」
「ううん……」
いったい、急にどうしたというのだろう。
焦っているような、恐れているような、とにかく蓮の様子は尋常ではない。
「どうしたの? あの石像に何かあったの?」
「……いや、別に」
蓮は険しい表情で顔を背け、校舎の方を振り返った。
蓮の態度は良くも悪くも分かりやすい。
休部の理由を尋ねたときと同じような、これ以上聞かないで欲しい、という“拒絶”が滲み出ている。
何故なのだろう。
何故、大事なことは何も話してくれないのだろう。
それで納得することなど無理に決まっているが、蓮は頑として沈黙を貫く気でいる。
小春の心の内に蔓延るもやもやが濃くなる。
「……悪ぃな、そのうち話すから。早く帰ろうぜ」
どれほど怪訝で不服であろうと、今はその言葉を信じる以外に選択肢はなかった。
蓮は何を抱えているのだろう。
小春には到底推し量れない。だから、頷いた。
「分かった」
────色々と気にかかることすべてに蓋をして、互いに“いつも通り”に立ち戻った。
他愛もない話をしながら歩いていると、家までの道のりはあっという間だった。
“水無瀬”とローマ字表記の表札が掲げられた洋風の門前で小春は立ち止まる。
「じゃあ、また明日ね」
「ああ、寝坊すんなよ。迎えに行くから」
「はいはい……。良いのに、わざわざ送り迎えなんて」
「別にわざわざじゃねぇよ。俺の家そこだぞ、通り道だからついでなだけだ」
蓮は親指で彼自身の家を指し示した。
「そういうことじゃなくて────」
小春はすぐ喉元までせり上がってきた言葉を押し戻した。
知りたいのは、何故突然こうも過保護になったのかということである。
送り迎えなど、中学時代から振り返ってみてもここ一か月が初めてだ。
付き合ってもいないのに、毎日一緒に登下校するなど、理由くらい聞きたいと思って当然だろう。
しかし、それも恐らく今は教えてくれない。小春は続きを口にするのをやめた。
「早く家の中入れ。あと夜は一人で出歩くなよ」
「……もう、何なの? お母さんよりお母さんみたい」
小春は苦笑しつつ、蓮に言われるがまま門の内側へ入ると、蓮に手を振り、玄関のドアを開けた。