ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
スマホをポケットにしまいつつ、蓮が戻ってきた。
「奏汰は無事だって。襲われてもねぇし、当然魔法も奪われてねぇ」
「良かった……。でも、じゃあ同じ魔法が存在するってことなのかな」
小春は疑問を口にする。
奏汰の家の前にいた謎の魔術師然り、その可能性が見えてくる。
「────水無瀬、こいつを殺せ」
不意に慧が残酷な提案をした。
小春は何を言われたのか分からず、一瞬呼吸すら忘れる。
蓮も瞠目した。突然何を言い出すのだ。
「魔法の疑問も殺せば答えが分かる。何より無償で能力を手に入れられる、またとないチャンスだ」
感情の込もっていない淡々とした声音で言を紡いだ。
「今なら無魔法の水無瀬にも殺せるだろ」
小春は思わず横たわる彼を見やった。
目を閉じているが、確かに息をしているのが分かる。
あれを、この手で止めろと言うのだ。
「おい、慧。何を馬鹿なこと言ってんだよ。何回も言うけど、小春のことは俺が────」
「守れなかっただろ。僕が来なきゃ、二人とも死んでた」
「それは……」
「今さら、魔法の会得に反対する理由はないはずだ。向井、お前は水無瀬が代償を負うのが嫌なんだろ。だったら、代償を払わずに魔法を得られるこの唯一の方法に賛成するべきじゃないか? やるなら今しかない」
慧の冷徹な言葉は、しかし的を射ていることを小春は理解していた。
実際、無力な自分は蓮を巻き込んで死ぬところだった。
何も出来なかった。
蓮も何も言い返せない。結果が物語っている。
「お前が無理なら、僕や向井がやる。死体から魔法を奪うんだ。……細かいことは分からないが、見た限り、こいつの魔法は決して弱くない。こいつを生かしても復讐しに来るだけだろう。やけに好戦的だし」
慧の言葉はすべて正論かもしれないが、それだけで割り切れるような内容ではなかった。
殺すなんて無理だ。殺せるはずがない。
自分のためだけに彼を殺す権利などない。
(でも……)
小春は蓮を見上げた。
自分のせいで傷を負わせた。危険に晒した。
このまま蓮や周囲に甘え続けていては迷惑だ。足手まといでしかない。
だからこそ、慧の言う通りにするべきなのだろうことは、頭では充分過ぎるほど分かっていた。
────しかし、自分で自分を守れるだけの力を得る方法は、彼を殺すことではないはずだ。
「どうする、水無瀬」
慧に問われた小春は、顔を上げた。
「……私は殺さない。二人も殺さないで。代わりに、この人を仲間に入れよう」