ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
第5話 11月10日
週明けの昼休み、小春たちは屋上へ集った。
人の来ないこの場所は、気付けば都合の良い基地のようになっていた。
他校組の奏汰と陽斗とは通話を繋いでおく。
「あの……私、ガチャ回しちゃった」
小春の爆弾発言に、全員が動きを止めた。
蓮に至っては、手にしていたパックのジュースをそのまま滑り落とした。
「何で……。守るって言っただろ。下手したら死んでたんだぞ」
「ごめん! でも、守られるだけじゃ嫌だよ。私も戦う」
「だからって────」
「落ち着け、向井」
我を忘れている蓮に慧が呼びかけた。
「結果的に無事だったんだ。もう責める必要ないだろ」
蓮は軽く唇を噛み締め、そっぽを向いた。
「代償は何だったの?」
蓮の一番聞きたかったであろうことを琴音が代わりに尋ねる。
「五年分の寿命、だった。本当に失ったのかはよく分かんないけど……」
小春は眉を下げつつ答えた。
『魔法は?』
電話口の向こうから陽斗が尋ねる。
「飛行魔法って書いてあったんだけど、どうやれば良いのか分かんなくて」
飛行ということは、少なくとも宙へ浮くことが出来るのだろう。
しかし、この間は何も起きなかった。
小春が困り果てていると、そっぽを向いていた蓮がくるりと振り返る。
「何か、こう……勢いで、何となくこう……がーっと使えんだろ」
「……全然分かんないよ」
語彙力の死んでいる蓮の説明はまったく参考にならず、さらに困り果てた小春は一刀両断した。
「コツは、イメージすることよ」
『具体的にイメージ出来れば、より安定して上手くいくよ』
琴音と奏汰の助言を受け、小春は立ち上がった。
ここは立ち入り禁止だし、少しくらいなら試しても平気だろう。
そっと目を閉じ、空に浮かぶ想像をしてみる。
ふっ、と足が地面から離れた感覚があった。思わず目を開ける。
「浮いた!」
小春より先に蓮が言った。
電話口の向こうで「マジで!? 俺も飛びたい!」と陽斗のはしゃぐ声がする。
小春は不思議な気分だった。
空中に留まることが出来るなど、まさしく魔法の力だ。
難しい理屈は分からないが、宙でも地上と同じような感覚で動くことが出来た。
一歩踏み出せば、きちんと進む。前後左右は無論、上下にも────。
足を動かさずとも高度を変えられるが、なかなか思うようにいかない。
気付けば風が強くなっていた。いつの間にかかなり高い位置まで来ている。
「……え!」
ばさ、と羽ばたくような音がした。
鳥でもいるのかと思ったが、それは自分から発せられたものだった。
両の肩甲骨の辺りから大きな白い羽根が生えていた。
羽ばたいても身体に負荷は感じない────ということは、羽根はあくまで補助的な役割を持つもので、小春自身からは独立しているのだ。
ふと下を向けば、皆の姿が小さくなっていた。
蓮が焦ったように大きく手招きしている。
琴音や慧の表情からも余裕がなくなっていた。
小春は素早く降下する。途中で羽根は消えてしまった。