ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
「あの、それで……陽斗の意識は戻ってないの?」
おずおずと瑚太郎は尋ねた。
頷いた慧はメガネを上げ直す。
「ああ、悪い。あのメッセージは、お前を誘い込むために僕が送ったものだ」
「見ての通り、甲斐くんは眠ったままだよ」
奏汰が肩を竦めた。その視線につられるように、瑚太郎も陽斗を見下ろす。
「そっか……。本当にごめん、陽斗」
その言葉に琴音は顔を上げた。
「どういうこと? やっぱりあなたが襲ったの?」
「あ、いや……。水魔法なんだとしたら、何か他人事とは思えなくて」
瑚太郎は陽斗襲撃については否認の態度を貫くつもりのようだった。
引っ掛かりは覚えるものの、悪意は感じられない。
各々がそんな印象を抱いたとき、瑚太郎は全員に向き直った。
「皆は僕についてもう知ってるかもしれないけど、改めて……僕は早坂瑚太郎っていいます。陽斗と同じクラスで、水魔法を持ってる」
そんな自己紹介の最後の部分に、蓮は思わず後ずさった。
陽斗のコピーによる水魔法を目の当たりにしたときのことを思い出しているのだろう。
“天敵”という事実を再認識した。
「そんな露骨に避けんでも……」
何処からか聞こえた関西弁に周囲を見回せば、小春の鞄から顔を覗かせたアリスが苦笑していた。
「いたのかよ」
「いつの間に……」
蓮と小春が驚いていると、アリスはベッドの上に飛び降りる。
「あ、話の腰折ってごめんな。ぜんぶ聞かせて貰ったわ。あたしは有栖川美兎、アリスでええよ。ほんで、この子は────」
アリスはこの場にいる全員の名前と魔法を、慧たちの制止も無視し、瑚太郎に明かしてしまった。
特に蓮は、瑚太郎が信用に値するか分からない今、弱点を隠しておきたかったのだが、アリスは自分勝手なマイペースさを発揮していた。
「おい、お前……」
「火炎魔法ってことは────」
瑚太郎は呟く。その先を口にはしなかったが、何を閃いたかはすぐに見当がつく。
蓮が警戒の色を深めると、予想に反して瑚太郎は穏やかに笑った。
「そういうことなら大丈夫。僕は蓮くんも、皆のことも襲わないから。もちろん危ないときには助ける。力になれるかは分かんないけど……」
そんな瑚太郎の言葉に安堵した小春が口を開こうとすると、それを阻むように慧が「いや」と言った。
「現状、お前は信用出来ない。口だけなら何とでも言える」
冷淡に突き放した慧の“信用”という言葉に、小春ははっとする。
大雅がそう言っていたのをすっかり忘れてしまっていた。
「あ、そうだよね。……ごめん」
瑚太郎は申し訳なさそうに俯き眉を下げる。
慧の言い分はきっと正しいのだろうが、小春は何だか心が痛むような気がした。
瑚太郎だって、悪意があって嘘をついていると決まったわけではないのだから。