ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
大雅の抵抗も虚しく、冬真と視線が交わったまま五秒が経過する。
それはすなわち、大雅にも絶対服従の術がかかったことを意味していた。
「……っ」
呆然とする大雅が、最早無意味となった抵抗をやめると、傀儡の律は彼を解放した。
冬真は満足気に頷く。その唇が弧を描く。
「よしよし、いい子だね……。そのままじっとしてて。逆心も忘れさせてあげるから」
そう言うなり、律が大雅の頭に触れた。
大雅は冬真の言葉に従わざるを得ず、微動だにしない。
律は大雅の記憶を操作した。
“命を狙われていると気付き、冬真たちを裏切った記憶”を消し“冬真に絶対の忠誠を誓っている記憶”を植え付けた。
大雅が小春たちに接触したのは、裏切るためではなく、冬真のための情報収集が目的という記憶に書き換わった。
また、つい先ほど、仲間たちに危険を知らせた記憶も消え去る────。
「瑠奈ちゃん、石化を解いてあげて」
「え……? あ、うん」
目の前の光景に怯え切った瑠奈だったが、意思とは関係なく、気付けば冬真の言うことに従っていた。
大雅の脚が元に戻っていく。
ふら、とバランスを崩した彼は地面に崩れ落ちる。
「う……、あれ? 俺────」
大雅は状況に困惑しながら、ずきんと痛んだ頭を押さえた。
(何してたんだったっけ……?)
「さぁ、二人とも。よく聞いて」
冬真はにこやかに大雅と瑠奈を見やった。
この夜の闇を、すべて吸い取ってしまったかのように、重く冷たい瞳で。
「瀬名琴音を殺して来い」
律を介し、冬真は命令を下した。
大雅と瑠奈は否応なく動き出す。
屋上を後にし、校舎から出て行った。
解放された律はその様子を上から眺め、ため息をつきつつ腕を組んだ。
「……胡桃沢の申し出をすんなり許した理由はこれだったか」
冬真は首肯を意味する微笑を湛えた。
最初から大雅のことも操作し、琴音殺害に向かわせるつもりだったのだ。
愚かにも大雅は、自分だけが魂胆に気付き、冬真たちを欺いていると思い込んでいた。
だからこそいつも、最終的に冬真に屈する羽目になる。
────実のところ、こうして律が彼の記憶を操作するのは、何も今回が初めてではないのである。
大雅が仲間まで作っていたのは今までにないことだったが、そこに冬真の狙う琴音が含まれているのはむしろ好都合と言えた。
「如月……。いつまでこんな鼬ごっこを続ける気だ? 必要なのはあいつじゃなくテレパシーだろ。後戻り出来なくなる前に、桐生を殺してその能力を物にしておくべきだ」
律の記憶操作は不完全であり、これまでも幾度となく大雅は消したはずの記憶を蘇らせてきた。
実際に取り戻していたのか、単に都度逆心を抱いていたのかは分からないが、記憶操作はあくまで一時しのぎと捉えるべきなのだ。