ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 冬真はしかし以前も言っていたように大雅自身を気に入っており、今すぐ殺すには惜しいと考えていた。

 殺るか殺られるかのスリルを味わうことや、頭の回転が速い大雅をねじ伏せる優越感に浸っていたいのだろう。

 不都合が生じるたび何度もセーブデータをリセットしながら、同じゲームを遊び続けているというわけだ。

 冬真は律に向き直ると、ゆるりと首を左右に振った。

 “殺さないよ、今はまだ”────言葉はなくともそう言われている気がして、律は再びため息をつく他なかった。



*



 大雅より数歩引いたところを歩きながら、瑠奈は何度もその背に目をやった。

 屋上での様子が頭から離れない。

 ただでさえ、大雅が裏切っていたというのにも驚きなのに、冬真の行動は狂気的だった。

 もしも彼を裏切れば、記憶を操作された上で操られてしまうというのか。

 ただ殺されるより背筋が寒い。やることなすことが恐ろし過ぎる。

 あの優しげな微笑みの裏に隠している本性は、まさしく鬼畜そのものである。

「ね、ねぇ……脚、大丈夫?」

「あ? ……あー、そういえば何で石化してた?」

 当たり障りのない疑問をぶつけたつもりが、図らずも探るようになってしまった。

 本当に覚えていないのだ。記憶を失っている。

(そりゃそっか、魔法だもんね。やばいのは如月冬真だけじゃないんだ……)

「分かんない。あたしは冬真くんの言葉に従っただけっていうか、身体が勝手に────」

 瑠奈は嘘に事実を混ぜて答えた。

 大雅は「そっか」とだけ短く返し、訝しむように首を傾げている。

「あのさ、それより琴音ちゃんの居場所って分かるの?」

 下手に追及されないうちに、瑠奈は話題を変えた。

 深夜だし、大抵家にいると思われるが、大雅は念のため琴音とテレパシーを繋いだ。

「今、何処にいる?」

『……桐生? 家だけど。こんな時間にどうしたの?』

 琴音は起きており、予想通り自宅にいるようだ。

「いや、何でもねぇ。ただ、これからまずい状況になるかも」

 神妙な声色を作る大雅を、瑠奈は思わず窺うように見やる。

 記憶が残っているのか、あるいは取り戻したのかと思った。

『何かあったの?』

「俺の裏切りが冬真にバレた。何とか逃げてる状況だけど時間の問題だ。悪ぃけど、お前らの安全も保証出来ねぇ」

『そんな────』

 琴音が息をのんだ。

 瑠奈には琴音の返答こそ聞こえないが、大雅の堂々とした態度からは不安を感じない。

「とりあえずお前はそのまま家にいろよ。何かあったら、お前に頼むから」

 仲間に危険が迫っても琴音の瞬間移動を使えば回避の隙がある、という意味だ。

『分かったわ』

 そう受け取った琴音は凜として頷いた。

 顳顬から人差し指を外した大雅は瑠奈に向き直る。

「よし、これでひとまず琴音は自宅に拘束出来た」
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