ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
瑠奈は大雅の記憶が戻っていないことを確信したと同時に、その言葉に表情を緩めた。
「じゃあ琴音ちゃんの家に行けばいいってことだね」
逃げも隠れも出来ない琴音を殺すことが出来る。
嬉々とした瑠奈だったが、大雅は不意に方向転換した。
「あれ、何処行くの? 琴音ちゃん家ってそっち?」
「いや、逆。直接相見える前にやることがある」
「えっ?」
瑠奈が困惑を顕にすると、大雅は両手をポケットに突っ込んだまま気怠げに振り向いた。
「じゃなきゃ二の舞になる。こっちが手出しする前に瞬間移動させられて終わり」
瑠奈ははっとした。河川敷でのことを思い出す。
すっかり油断し、警戒が薄れていた。
いくら居場所を特定しても、彼女には一瞬で姿を眩ませる術があるのだ。
「お前……“同じ轍は踏まない”とか言っといて無計画なのかよ」
「だって! どうすれば────」
ただ琴音を恨み、殺意だけを昂らせていた。
その魔法をどうにかしなければ、結局勝ち目も見出せないのに。
眉を寄せる瑠奈に対し、大雅は淡々と言ってのける。
「弱点を考えろ。あの類は体力消費も激しいし、肉体への負荷もでかい。だから……人質を取って、短時間のうちに連続使用させる」
まさに理にかなった策だと瑠奈も思った。
それならば確かに、反動により琴音を無力化出来る。
「人質って……琴音ちゃんの仲間?」
「ああ、俺は全員把握してる。あいつの瞬間移動を、俺たちじゃなく仲間に向けて使わせるんだ」
どうやって、と尋ねようとして唐突に閃いた。
「そっか! 私たちから逃がすために、ってことだね」
「そういうことだ」
瑠奈の言葉に大雅は首肯した。
琴音には既に不安の種を植え付けている。布石は済んだ。
大雅のことも信用しているため、何ら疑うことなく言う通りに動いてくれるはずだ。
「行くぞ。準備する」
先導する大雅について歩けば、辿り着いたのは小春の家だった。
瑠奈は死角に隠れ、大雅は門前から小春にテレパシーを送る。
「起きてるか? 今、お前の家の前にいる。ちょっと出て来られるか?」
小春は突然頭の中に響いてきた大雅の声に驚いたものの、眠りにつく前でよかった、と安堵した。
わざわざ家まで来るとは、余程の急用かもしれない。
部屋着姿であることに気が引けたものの、待たせるわけにもいかず、小春はそっと階段を下りると玄関のドアを開けた。
門前に大雅が立っているのが見え、小春は急いで門を開ける。
「どうしたの? こんな夜中に……」
戸惑う小春に、大雅は躊躇なく手を伸ばした。
その手を掴むと、じっとその目を見据える。
驚いた小春はまじまじと大雅を凝視した。