ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
「何……!?」
混乱する小春だが、傍から見ていた瑠奈もまったく同じ気持ちだった。
何のつもりなのだろう?
そうこうしているうちに、瞠目していた小春の瞳から光が失われていくのが分かった。
瑠奈はますます驚愕する。
(何が起きたの……?)
「おい、もういいぞ。出て来い」
大雅は瑠奈に言った。
はっとした瑠奈は恐る恐る大雅のもとへ寄る。
立ち尽くす小春からは意思や感情を感じられない。まるで、冬真による傀儡のような────。
「何したの……?」
「言ってなかったな。俺も人を操れるんだよ」
さらに驚く瑠奈に、大雅は説明した。
「冬真の傀儡とはちょっと違うぞ。あいつの場合、傀儡には意識がある。操られてる間の記憶もある。ただ自由が効かない操り人形になるんだ」
目も見えているし耳も聞こえているのに、言葉も行動も思い通りにならないのだ。
「俺の場合、操られてる奴には意識も記憶もなくなる。当然操られてる間だけだけど」
冬真による操作と比較すると、大雅の場合、操られている本人の目と耳は塞がっている状態になる。
また、大雅の操作は魔法の応用という範囲であるため、かなりの反動が伴った。
特に、操りながら彼または彼女が魔法を使用した際に最も大きくダメージを受ける。
「そんなことまで出来たんだ……。だったら、それで冬真くんたちを────」
どうにかしたらいいじゃん、と最後まで言い切らなかったのは、なけなしの理性が働いたお陰だった。
どうとでも出来るだろう。否応なく従う必要もなくなる。
そう思ったが、それは口にしてはならない言葉だった。大雅は今、記憶を書き換えられているのだから。
「冬真たちが何だ?」
「あ、ううん。何でもない!」
瑠奈は慌てて誤魔化しておく。
下手なことを口走れば、次は自分が記憶を操作されてしまう。
大雅は特に気に留めることもなく、本題へと戻った。
「あんまのんびりしてると俺の身体がもたねぇ。急ぐぞ」
そう言うと、小春は蓮の家の方へ歩いて行った。
大雅と瑠奈は付近に潜み、状況を見守る。
操作された小春は蓮に電話をかけ、応じた蓮が先ほどの小春のように家から出てきた。
「小春、こんな時間にどうした? そんな格好で────」
「来て。冬真くんが皆の家を特定して狙ってるって」
「え?」
小春の一挙手一投足、言葉の一つ一つは、すべて大雅が操作しているものだったが、蓮に疑う素振りはない。
「大雅くんから、急いで逃げろって!」
眉を下げ、小春は不安気な表情で蓮を急かした。
「逃げるっつっても、何処に?」
「分かんないけど、ばらばらになった方がいいと思う。蓮は学校に行ってて」
「小春はどうすんだよ」
「私は飛びながら皆に知らせて、それぞれ安全なところに連れて行く」
非常事態において、如何にも小春が言いそうな台詞だ。瑠奈はそう思った。
「待て、俺も一緒に……」
「私が同時に飛ばせるのは一人だけなの。私なら大丈夫だから」
小春は自身の魔法の全容を知らないかもしれないが、大雅はテレパシーにより把握していた。
彼女の魔法は自身だけでなく、他者を浮遊させることも可能だ。その場合、高度十メートル未満までという縛りはあるが、術者が触れていればそれ以上も到達可能である。
そして今小春が口にしたように、同時に浮遊及び飛行させられるのは一人までだ。