ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「じゃあ、せめてこれ着とけ」

 蓮は羽織っていたパーカーを脱ぎ、小春の肩にかけた。小春は大人しくそれに袖を通す。

 肌寒い夜にそれでは心もとない気もするが、ないよりはマシだ。

「ありがとう」

「……おう」

 蓮は頷きつつ、小春にパーカーのフードを被せた。

 こうしておけば、誰かに見られる危険性も多少は下げられる。

「なぁ、大雅はどうした? あいつなら一斉に呼びかけられるはずだろ」

 蓮の言葉に瑠奈はぎくりとした。それは正論だ。

 わざわざ小春が飛び回らずとも、大雅なら一瞬で全員とコンタクトをとれる。

 しかし瑠奈とは対照的に、当の大雅は泰然自若としていた。

「たぶん、もう冬真くんに操られてると思う……」

「そっか、裏切りがバレたんだな。無事だといいけど」

 案ずるように言うと、蓮は続けた。

「俺も皆に電話してみる。分担しようぜ。ばらばらになるように、先に決めとこう」

 その申し出は大雅にとってもありがたいものであり、何より計算通りなものだった。

 小春を操作しながら一人一人の家を回っていたら、とても身体がもたない。反動に耐え切れない。

 かと言ってテレパシーを使うわけにもいかないため、蓮の提案は都合がいい。

 そして、小春を操ったのには蓮をそのように動かす意図もあった。

「分かった。じゃあ────」



 かくして、小春と蓮は動き出した。小春は羽根を使いつつ高速で飛行し、慧の家へ向かう。

 それを見届けた大雅は、頭を押さえながらその場に屈み込んだ。

「大丈夫?」

「ああ……、ちょっと疲れただけだ」

 頭痛に始まった反動は、さらに激しい動悸や息切れを連れてきた。

 脈打つたびに心臓が悲鳴を上げ、呼吸するたびに胸骨が軋むような気がした。

 この間も、操られている小春と自主的に協力してくれている蓮は着々と仲間たちを家から連れ出し、それぞれ異なる場所へ運んでいた。

 大雅が立ち止まっても、小春が魔法を使い続けている以上、身体はどんどん反動に蝕まれていく。

「……ねぇ、大雅くんが死んじゃうよ」

「心配いらねぇよ……」

 荒い呼吸を繰り返す大雅を見兼ね、瑠奈は言った。

 大雅は蒼白の顔で答えるが、とても平気そうには見えない。

 ────それでも反動に抗いながら、何とか事を成し遂げた。

 蓮は名花高校、奏汰は自宅、陽斗は動かせないためそのまま病室、慧は河川敷の橋の下、アリスは高架下にそれぞれ待機させておく。

 すべて、琴音が知っている場所だ。

 瑚太郎に関しては、大雅自身が会ったことがないため、自宅の場所も現在の居場所も分からなかった。しかし、一人くらい別に構わない。

「う……っ」

 不意に咳き込んだ大雅は、咄嗟に口元を押さえた。その掌には血が広がっている。

 それを見た瑠奈は小さく悲鳴を上げた。

「ほ、本当に大丈夫なの?」

「……ああ」

 浅い呼吸の大雅は頷くも、しんどそうに付近の塀に背を預ける。

 目を閉じ、小春に飛ばしていたテレパシーを解除する。操作を解いた。

 一分と経たずに呼吸が正常に戻っていく。心拍も緩やかに落ち着いていく。
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