ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「皆、悪ぃ。俺のせいで琴音が死にかけてる。小春を操ってたのも俺だ。詳しく説明してる暇はねぇけど……」

 大雅は全員にそう伝える。
 その間も足は意思と反し、名花高校へ向かっていた。

 否が応でも琴音のもとへ向かわされる。殺すために。



『今から十二時間、俺のことは信用しないでくれ』

 痛切な言葉を聞き、小春は勢いよく空へ舞い上がった。

 高度を上げ、羽根を使いながら高速で飛行する。

(助けなきゃ……。私しかいない)

 仲間の全員が高架下にいるのなら、そして既に瑠奈が琴音に迫っているのなら、今から向かっても間に合わない。

 小春が行くしかないのだ。

 その思いだけに突き動かされ、ひたすら夜空を飛び抜ける。

(助けるよ、今度は私が────)



*



 薄暗い教室の中で、吐血して蹲る琴音を見た瑠奈は得意気に笑った。

(殺れる。この状態なら、あたしにも……)

 やはり大雅は賢い。運や偶然に委ねることなく、確実に目的を果たす手段を講じてくれた。

 ここまで琴音を追い詰められたのも、彼のお陰だろう。

「随分苦しそうだね、琴音ちゃん」

「……瑠奈……」

 琴音は精一杯瑠奈を睨みつけたが、出来る抵抗はその程度しかなかった。

 手足に力が入らない。もう、しばらくは魔法を使うことが出来ない。

 自身が瞬間移動で逃げることも、瑠奈を何処かへ飛ばすことも叶わない。

 仲間たちは、高架下へ自分が移動させてしまった。陽斗は入院中で意識不明、小春は行方知れず。

 この状況で助けを求められるのは大雅くらいだが、絶対服従の術にかけられているため期待出来ない。

 自分で何とかするしかないのに、どうしようもなかった。

「そういう、こと……。水無瀬さんを操ってたってことは、わざと“二度手間”を踏ませたのね……。私を、反動で弱らせるために……」

 浅い呼吸の中、掠れる声で琴音は言った。

 瑠奈は跳ねるような足取りで、ステッキ片手に琴音と距離を詰める。

「そうだよ。そうとも知らず、せっせとご苦労さま」

 にっこり微笑んで見せると、琴音の前に屈み込む。

「君ももう終わりだね。あたしを虚仮にしたお返しをしてあげる。誰に勝ち目がないって?」

 立ち上がった瑠奈は、ステッキの先を琴音に向けた。

「石にして……ばらばらに砕いてやる」

 琴音は霞む視界で瑠奈を見上げた。

 まさか、こんな形でゲームオーバーを迎えるとは思わなかった。

 まさか、瑠奈ごときに殺られることになるとは思わなかった。

 悔しいが、策に嵌まったのは琴音自身だ。その時点で負けだった。

「……っ」

 琴音は絶望を覚悟し、目を閉じる。



 そのとき、遠くの方から誰かが駆けてくる足音が聞こえたような気がした。

 助けを求める期待から来る幻聴だろうか。

「瀬名さん!」

 その声に琴音は、はっと目を開け顔を上げた。
 教室の扉の枠の中に小春が立っている。

「水無瀬、さん……」

「何で小春ちゃんがここに────」

 瑠奈は瞠目したものの、限界の近づいた大雅が術を解いていたことを思い出す。

 どうやって琴音の危険を嗅ぎつけたのかは分からないが、邪魔をするなら石化させるまでだ。
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