ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
小春は琴音の血に驚いたが、それが外傷ではなくあくまで反動によるものだと気付き、少しだけ安堵した。
予断を許さない状況なのは確かだが、どうやら間に合ったようだ。
「せっかく琴音ちゃんを殺れるチャンスなの……。邪魔しないで」
瑠奈は標的を変え、ステッキを小春に向けた。
琴音の方へ向かいかけていた小春の足が自ずと止まる。
小春は素早く教室内を見回し、この状況を打破する算段を探る。
迫り来る瑠奈から後ずさると、太腿の裏に机が当たった。
その瞬間、瑠奈が魔法を繰り出した。
「!」
小春がそれを避けると、先ほどの机が石と化す。
駆けて避けた勢いのまま、小春は琴音のもとへ滑り込んだ。
「瀬名さん、大丈夫?」
「……っ」
蹲っていた琴音は、不意にがくりと脱力し、そのまま床に倒れ込んでしまった。
限界を迎え、ギリギリで保っていた意識をとうとう手放したのだ。
「瀬名さん!」
小春は慌てながら呼吸を確認した。浅く不規則ながら、息はしている。
素早く琴音に触れ、彼女を宙に浮かせた。
そのまま庇うようにして立つと、瑠奈と対峙する。
「ふーん……、それが小春ちゃんの魔法?」
瑠奈はさして興味なさげに言い放った。
大して強くもなさそうだ。その程度なら、自分の方に軍配が上がるだろうと踏む。
第一、琴音を浮遊させたところで意味はない。
瑠奈は余裕そうな笑みを湛え、手中でステッキを弄んだ。
それを一度宙に投げ、再び手に収めると同時に薙ぎ払うように振った。
小春たちの方へ、小石のようなものが飛んでくる。
「……!」
小春は琴音を横抱きにし、慌ててそれを躱した。
瑠奈の放った石が窓に直撃し、ガラスにヒビが入る。
(何あれ……!?)
まるで銃弾のようだった。まともに食らっていたら命はない。
瑠奈は対象を石化するだけでなく、石を操ることが出来るのだと考えた方が正しいようだ。
「なかなかすばしっこいね。でも、反撃しないと勝てないよ!」
小春は瑠奈の挑発を取り合わず、琴音を抱えたまま机の上に乗った。
飛び移るように助走をつけ、窓に蹴りを入れながら飛び込む。
ガシャァアン!
けたたましく甲高い音が響き、ガラスが散った。
瑠奈の作ったヒビを利用して窓を割り、小春は外へ飛び出したのだった。
「な……!?」
予想外の事態に瑠奈は慌てた。
割れた窓に駆け寄り、下を覗き込む。
ここは三階だ。下にはコンクリートが広がっており、飛び降りて無事でいられるとは思えない。
小春は落下していったものの、一瞬で高度を上げる。
羽根を使いながら高速飛行していく。
瞬く間に夜の闇に消えてしまった。
(琴音ちゃんを浮遊させたのは、抱えて逃げるためだったってわけ……)
最初から瑠奈とやり合う気などなかったのだ。
瑠奈は虚空を見上げ、悔しげに唇を噛み締めることしか出来なかった。