ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*



 蓮はふと、夜空を舞う影を見つけた。
 羽根が降る────琴音を抱えた小春だった。

「小春!」

 瑠奈から逃げ、高架下へと直行して来た小春は、地面に降り立つと、そっと琴音を横たえた。

「無事だったんだな、良かった……」

「何が起きてるんだ?」

 ひとまず安堵する蓮と、状況を尋ねる慧。

 アリスはスマホのライトを点け、小春と琴音を照らした。

 小春は琴音の青白い顔と、唇の端や制服に染みた赤い血を見て、急速に不安になった。

「どうしよう……。このままで大丈夫なのかな? 死んじゃったりしないよね?」

「休めば元通りになる。それより落ち着いて状況を話せ。桐生の言葉も何なんだ」

 険しい顔の慧が言った。

 小春は眉を寄せながら、事の次第を話す。

「大雅くんが……律くんに記憶を書き換えられたみたいで、冬真くんに操られて、私たちの敵だと思い込んで行動してたの」

 小春も全容を漏れなく把握しているわけではなく、さらに瑠奈の襲撃や琴音の危機に精神をすり減らしており、なかなか要領を得ないような説明になってしまう。

「その大雅くんに私も操られて、皆のことをばらばらにした……。自分が何を言ってたか、何をしたのかも全然覚えてないけど」

 我に返ったときには、もう遅かった。

 大雅が正常な記憶を取り戻したときも、琴音は既に追い詰められていた。

 結果的に瑠奈の脅威は一旦脱したものの、自分の責任でもあるような気がしていたたまれない。

「小春、よくやった。お前が琴音を救ったんだ」

 思い詰めたような表情を浮かべた小春を蓮は労った。

 それは紛うことなき事実であり、小春が自分を責める必要は何処にもない。

「桐生くんはどうなった?」

 奏汰が小春に問うた。

「分かんない。でもテレパシーでも言ってた通り、まだ術は解けてないから操られてるはず……。瑠奈ともども、瀬名さんを殺そうとしてる」

「記憶が戻っても身体が言うこと聞かんってわけやな。自分じゃどうしようもないから“逃げろ”ってか」

 アリスが神妙な面持ちで言った。

「てか、絶対服従って……隠れとっても居場所バレるんか?」

 絶対服従ということは抗えない命令ということであり、大雅の話し振りから、命令されると身体が勝手に動くのだと想像がつく。

 琴音を殺せ、という命令において、琴音の居場所が分からずとも琴音のいる方向へ向かってしまうのだろうか。

 もしそうだとしたら、隠れても意味はない。それこそひたすら逃げるしかない。



「────いや、今回の場合はそうじゃない」

 慧の硬い声に、全員が彼を見た。

 その視線を辿ると、街灯に照らされた人影が二つ目に入る。

 大雅と瑠奈が、こちらへ向かって歩んで来ていた。
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