ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
油断なく瑠奈を見やっていると、突如として視界に大雅が現れた。
胸ぐらを掴まれた奏汰は、その勢いのまま地面に倒れ込む。大雅に上から押さえつけられている形だ。
「奏汰!」
蓮は咄嗟に炎を宿したが、寸前で思い留まる。
大雅を傷つけるわけにはいかない。
「くっそ、やりにくい……」
蓮は駆け出し、大雅の上腕を掴んで奏汰から引き剥がした。
すぐさまそれを振りほどいた大雅は、蓮の首に手を伸ばす。
ガッ、と思い切り蓮の首を掴んで締める大雅を見た小春は、慌てて立ち上がった。
「大雅くん! やめて……!」
届かないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
「たい、が……」
蓮は掠れた声を絞り出す。
それを受けた大雅は首を締められている蓮より苦しげに顔を歪めた。
駆け寄った慧が大雅の腕を剥がし突き飛ばす。解放され、激しく咳き込んだ蓮を見やった。
「何してる、向井! 殺されたいのか」
抵抗出来るのに何もしなかった蓮を叱責した。
「なわけ……っ。でも、どうすればいいんだよ!」
下手に抗えば、傷つけてしまうかもしれない。
大雅にとってもこちらにとっても不本意な争いなのだ。
蓮が突き飛ばされた大雅を「大丈夫か」と案ずると、大雅は辛うじて「ああ」と頷いた。
大雅は、実戦においては無魔法同然だが、素の力と喧嘩の強さが、この状況では災いしていた。
「ほんまに……どうしたらええねん! 殺してええんか」
瑠奈による石化攻撃を、矮小化して避けたアリスは、誰にともなく尋ねる。
「駄目!」
気付けば、小春は声を張っていた。
ゲームに巻き込まれてから、日々胸の内に蓄積していた靄が爆発する。
「皆殺しとかバトルロワイヤルとか、そういう言葉に惑わされてるけど……私たちは皆同じ立場。どんな理由があっても、殺しが正当化されるわけじゃない」
凜然とした小春の言葉に静寂が落ちる。
ずっと引っ掛かっていた“殺し”についての認識が初めて言葉になった。
アリスは反論を口にしようとしたが、それより先に慧が口を開く。
「正論だが、今はそんなことを言っていられる状況じゃない。向こうの殺意を甘んじて受け入れるのか?」
厳しい言い方だが、真っ当な言い分でもあった。それは小春にも理解出来る。
「悪いが、僕はお断りだ」
手に稲妻を走らせ、慧は瑠奈の方へ駆け出した。
何かを言う間もないうちに、瑠奈に放電する────バチッ、と鋭い音がしたかと思うと、瑠奈の膝から力が抜けた。
どさりと地面に崩れると、ステッキを手放し横たわる。意識を失ったか、あるいは……。
「望月くん……」
身を強張らせながら、小春はその名を呼んだ。
まさか────。