死亡エンドを回避していたら、狂愛キャラが究極のスパダリになってしまいました!?
婚約式の記憶を探っても見当たらない、おそらく私に見せるのは初めてであろう表情。
どことなく楽しげで、可笑しそうに。
私をじっと見据えて彼は小さく笑っていた。
(あれ、なんか、ちょっと様子が)
室内に入ってきたときは無かったはずの瞳の変化に、私は嫌な予感を察知する。
「解消は、ひとまず保留かな」
「え!? それは、どういうっ」
慌てる私をよそに、シルヴァンは機嫌良さそうな面持ちを崩そうとはしない。
「婚約式の時と同じく俺を盲目的に見るような子だったら、その提案もありかと思っていたんだけどね。少し、気が変わった」
「気が、変わった……」
「今日のところは引き上げるとするよ。また後日話そう――エリザ」
どことなく機嫌をよくしたシルヴァンは、軽く片手をあげて部屋を出ていった。
私は引き止める暇もなく呆然とその背中を見送るしかできなかった。
(……名前、呼ばれなかった?)
乙愛でシルヴァンは、気が昂ったエリザを宥めたり言う事を聞かせる時にだけ、エリザの名前を甘く囁いた。
それにコロッと流されるのもどうかと思っていたけれど、つまりシルヴァンはエリザを名前では呼ばすほとんど「君」で通していた。
だというのに、最後の最後で名前を呼ばれた。その意味がわからず、私はわなわなと震えてしまう。
(婚約解消も保留と言われ、また後日話そうって……もしかして私、失敗した?)
てっきりこちらが婚約解消をチラつかせれば快く頷いてくれると思っていたというのに。
予想外の展開に、私は呆気に取られるほかなかった。