もうごめん、なんて言わないで
プロローグ
ここは眠らない街ラスベガス。
煌びやかなエンターテイメントの光が、まだまだ長い夜を演出する。
とある高級ホテルの一室からは大掛かりな噴水ショーが一望でき、壁一面の大きな窓の奥に広がる景色が私たちの瞬間を彩っていた。
「美亜」
甘い声が私を呼び、ゆっくりと後ろから包み込む。
吸い込まれるように沈んでいったベッドの中で私たちはじっと視線を絡ませた。
「青山くん」
「名前、昔みたいに呼んでよ」
覆い被さる彼が視界を占領する。頬の辺りまで伸びる前髪は長い指になぞられて、ゆっくりと顔が近づいてきた。
「……俊介」
緊張しながら応えるように出した声は小さく震えた。七年ぶりに名前を呼んだら、恥ずかしさと愛おしさで心臓の鼓動がどうにかなりそうになった。
整えられていた真っ白いシーツにはだんだんとしわが刻まれていく。
お酒のせいで頭がぼんやりしてくるのも構わずに、お互いを求めるように何度も唇を重ね合わせた。
一度きりの夜でもいい。
彼の記憶の片隅で、あんなこともあったと思い出されるだけの儚い存在でもいい。
私は彼に身を任せるように体を預けた。
異国の地でネオンの光が差し込む中、ふたりの影が交じり合う。
それは、たった一夜の過ちのはずだった――。
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