もうごめん、なんて言わないで
「なあ、女だったら確実にお前に惚れる」
「コマに惚れられても嬉しくないわ」
引き気味に顔を歪める俊介に駒井くんが飛びつき、どっと笑いが起こった。
しかし私だけはぼうっとしたまま、大人の色気溢れる彼の姿にいつまでもドキドキしていた。
俊介が先陣を切って慣れた様子で中へ入ろうとする。入り口付近で親しげに従業員の女性たちと話し始め、流暢な英語が聞こえてきた。
「ちょっと良い男に成長しすぎたよね」
「え?」
「あれでパイロットとか普通にスペック高すぎ。なんとしてでも捕まえときたかったよね」
いつの間にか腕を絡ませてきた杏奈がにんまり笑いながら、からかうように言う。
「やめてよ、全然そんなんじゃないから」
慌てて引きはがすと、えー、と残念がる声を出した。
「だって青山くん絶対美亜のこと好きだったもん。ふたりは付き合うって、ここにいるみんな思ってたのに。まさか美亜がフラれるなんて誰も――」
杏奈が言いかけた言葉にドキッとする。
「あ、いや、ごめん」
やばいと思ったのか、口をぎゅっと結ぶ彼女を見て「ううん」と微笑んだ。
カジノに入っていくみんなを追いかけながら、俊介と初めて話した日のことをぼんやり思い出していた。