もうごめん、なんて言わないで


 高校一年の春。部活動が仮入部期間に入ったばかりの放課後、話しかけてきたのは彼の方だった。


『白河さんだよね? 同じクラスの青山です』


 下駄箱で靴を履き替えていたら声をかけられ、心底驚いたのを覚えている。

 彼は入学式の日、一目惚れをした人だったから。

 新入生代表として挨拶をしていた姿が少しだけ他の男子より大人に見えた。


『もう帰っちゃう? サッカー部のマネージャーとか興味ない?』


 なぜ誘ってくれたのかは今でも分かっていない。

 俊介目当てに入ろうとする人はたくさんいるだろうし、マネージャーを探していたとは考えづらい。

 でも話しかけられただけで飛び跳ねるほど嬉しかった私は、どんな理由だって少しでも彼に近づけるならと、同じクラスの杏奈を誘いサッカー部へ入った。


『俊介って呼んでよ』


 入部してすぐ、なぜか私にだけ向けられた言葉。

 今でもあの日の笑顔が忘れられず、頭の中にしっかりと残っている。私だけが特別だと優越感に浸り、どんどん恋に落ちていった。


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