もうごめん、なんて言わないで
早くなにか話さなくちゃ。そう焦れば焦るほど声が出ない。
どうしようかと泣きそうになっていたら、もう一方の腕も誰かに掴まれた。
驚いたのも束の間、外に向かって勢いよく引っ張られていく。後ろからは叫ぶ声がするものの走り出した足は止まらなかった。
目の前にはストライプ柄のシャツが見えた。
「ちょっと待って。待ってってば!」
ホテルから出てようやく立ち止まってくれたのは、道路を渡り向かいの通りに出たところ。
途中で落としかけたジャケットを握りしめ、息を切らしながら膝に手をついた。今にもここで寝転びたい気分だ。
「足速すぎだよ」
「俺、久々にこんな走ったかも」
フェンスに背中を預けて座り込む俊介は軽くかいた汗を拭う。無茶する彼が笑い出し、私にも伝染してきた。
「あ」
突然俊介の顔色が変わった。
「ごめん、これ痛いやつ?」
彼は少しだけ赤くなったかかとを見て焦った様子で近づいてくる。壊れ物を扱うようにして優しく足に触れてきた。
ヒールの低いパンプスだったからまだそこまで痛くはなっていない。ひどく心配した顔で見上げてきたもので吹き出すように笑ってしまった。