もうごめん、なんて言わないで


「お邪魔します」
「そういう抜けてるとこ昔からあったよな」
「そっちだって」


 ルームキーも鞄の中で自分の部屋にすら戻れず、仕方なく俊介が泊まる部屋で休むことになった。

 急遽ラスベガス行きが決まった彼は同じところには泊まれず、隣の高級ホテルをとっていた。


「電話番号なんて覚えてるんだ」


 すぐにでも連絡をとるためひとまず部屋の電話を借りる。


「うん、慶タローのなら昔から変わってないから」


 迷いなく番号を押す私を見て驚く俊介が、目の前のベッドに腰掛けた。


「ケイタロウ?」


 受話器を耳に当てた途端、反対側から不思議そうな声がした。


「えっと、安藤……」
「あー、安藤のことか。そういえばそんな風に呼んでたっけ」


 俊介の声色が少しだけ変わった気がした。

 耳元で鳴る呼び出し音が無性に焦ったく感じる。何度も何度も呼び出しているのに少しも出る気配はなかった。


「出ないや」


 静けさの中で置く受話器の音が思った以上に反響し、私は遠慮がちに近くの椅子に腰を下ろした。


「そういえば色々ありがとう。プライベートジェットもお父さんに頼んでくれたって駒井くんから聞いた」
「うん、本当は俺も乗るつもりだったからさ」
「忙しそうだね、パイロット」


 そわそわと部屋を見回しながら、ひたすら言葉を繋ぐ。


「でも仕事の中日にラスベガス来れちゃうなんて、本当かっこいい仕事だよね」


 間があくと、ふたりっきりでいることを意識してしまい、必死に話題を探した。


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