もうごめん、なんて言わないで
「ここも知り合いのホテルなんでしょ? こんな高級ホテル泊まれるなんてやっぱり違うよね」
落ち着かず、なにかないかと歩きながらカーテンに手をかけた。
すると、わずかにうわぁと声が漏れる。
さらりと舞うレースカーテンの奥に広がるネオン街。目の前で噴き出している大きな噴水は輝いて見えた。
「綺麗」
そっと窓ガラスに触れながら目が釘付けになる。
「ああいうキラキラしたの好きだったよな」
後ろから気配を感じた。
そのまま私を包みこむようにして壁に手をついた俊介が、耳元のあたりに顔を寄せてくる。動けば当たってしまいそうなほど近くにいた。
背中に熱を感じる。
触れそうで触れない距離が私を硬直させた。
心臓がバクバクと今にも飛び出しそうになり、ふと視線を上げたら窓ガラスに反射してうっすらと彼の姿が映った。
整った顔。
景色を見ているふりをして思わず見惚れた。
まじまじと見ていたら視線が交わり、慌てて目を逸らしたけれど時すでに遅かった。くすくすと笑う声が聞こえてくる。
「どうかした?」
顔をさらに近づけてきて、落ち着いたトーンで囁く彼と壁の間に挟まれる。どうにも動けなくなった。
「なんか意地悪になったみたい」
「そう?」
私の反応を楽しむように動こうとしない彼は、少しして気配を消した。
恐る恐る顔を上げたら、ベッドの上でネクタイを緩める姿がガラス越しに見えた。