もうごめん、なんて言わないで
「初めて話したときのこと覚えてる?」
ぼんやりと彼を見ていたら、つい口にしていた。
「ああ、下駄箱だったっけ。覚えてる、あの時高校生だもんな」
当たり前のように話す彼はワイシャツの袖をめくり、ははっと笑った。
私はごくりと唾を飲む。
「なんで、声かけてくれたの? なんで、マネージャーに誘ってくれたの? それまで一度も話したこともなかったのにって、ずっと気になってた」
聞けずに留めておいた疑問を吐き出した。
どうして今だったのかは分からない。意味なんてないのかもしれないけれど、特別な意味があると期待したくてあの頃の私には確認する勇気がなかった。
でも今なら聞けるような気がする。むしろ聞きたいとすら思っている。
きっとラスベガスの街がそうさせた。
「なんで、か」
小さく呟くように彼が言った。
私はそこに続く言葉に身構え、お腹のあたりで服を掴む。早くなにか言ってほしいのに、沈黙が長くなるにつれだんだん怖くなっていく。
ぎゅっと目をつむり、耐えきれずに振り返ろうとしたら、突然後ろから温もりに包まれた。さっきまで背中に感じていた熱とは違い、体がすっぽりとおさまっている。
俊介の腕の中にいた。
「どうしたの」
声が震えた。
優しく抱きしめられ、驚きと動揺と恥ずかしさといろんな感情が入り混じる。ふとガラスに反射して見えた自分の姿に赤面した。